この記事のポイント
- 米Tom's Guideの記者が、ChatGPTとClaudeのViator連携を使って7日間の京都旅行を計画し、提案の質と見せ方を比較した実体験を公開した
- 両AIともViatorの実在ツアーを星評価・件数・所要時間・価格つきで提示できたが、Claudeは旅程全体を組み立て、Viator外の体験まで足した点で評価された
- AIは旅行の「発見と提案」では確かな実力を見せた一方、実際の予約・決済は依然として外部に委ねる構造であり、OTAやアクティビティ事業者にはカタログのAI対応という宿題が突きつけられている
AIに京都旅行を丸ごと任せた記者の実験

Mapping out my future week-long stay in Kyoto
www.tomsguide.com米テックメディアTom's Guideの記者が2026年6月、ChatGPTとClaudeの両方にViatorを連携させ、7日間の京都ひとり旅を計画させる実験を公開しました。予算は3,500ドル、興味はビデオゲーム、食、レスリング、レコード収集、アニメ、写真という具体的な条件です。従来なら旅行ブログを読み漁る場面を、丸ごとAIに委ねたわけです。
この実験が示すのは、単なるチャットボットの優劣比較ではありません。OpenAIとAnthropicがそれぞれViatorを取り込んだことで、AIが旅行を構想し、アクティビティ予約プラットフォームに接続して提案するエージェンティックトラベルが、現実の使用感として検証できる段階に入ったという事実です。記者の体験は、その実力と限界を生々しく映し出しています。
ChatGPTでは「アプリ」として、ClaudeではMCP(Model Context Protocol)ベースの「コネクター」として、Viatorが組み込まれています。同じViatorという情報源を、設計思想の異なる2つのAIがどう扱うか。そこに各社のエージェント戦略の違いが透けて見えます。
ChatGPTとClaudeはViatorをどう料理したか
記者は両AIに同一のプロンプトを与えました。「一流の旅行アドバイザーとして振る舞い、私の興味と予算に合う最も記憶に残るViator体験を、価値と感動の度合いでランク付けして推薦せよ」という指示です。同じ入力に対する両者の出力の差が、この実験の核心になります。
ChatGPTのViatorアプリ連携は、Viatorのライブデータベースから直接情報を引き、星評価・レビュー件数・所要時間・価格つきで選択肢を表示しました。膨大なツアー候補の中から、プライベート京都ツアー、錦市場のブランチ食べ歩き、祇園の芸妓地区ウォーキング、祇園の夜の食べ歩き(9品以上+日本酒6種)という4本を上位に挙げています。実在の在庫情報をその場で参照する点は、エージェンティックコマースの基本形そのものです。
Claudeに同じプロンプトを渡すと、Viatorコネクターは料理教室、スポーツ体験、観劇、映画ロケ地ツアー、グルメツアーなど幅広い候補を、やはり星評価・件数・所要時間・1人あたり価格つきで提示しました。ここまでは両者ほぼ互角です。差が出たのは見せ方でした。
両者の決定的な違いは、Claudeのコネクターが京都の体験を1冊のプレイブックとして時系列で組み立てた点にあります。さらにClaudeはViatorの枠を越えて提案を広げました。レトロゲーム店スーパーポテトを目当てにした大阪日帰り、京都のレコード店巡り、京都国際マンガミュージアム、K1・キックボクシングのイベントといった、記者の趣味に踏み込んだ追加プランです。記者は両AIとも良質なツアーを提示したと認めつつ、旅程を設計し興味に沿った予定まで生成したClaudeの体験を好ましいと結論づけています。
この比較が映す「発見」と「予約」の断層
記者の感想は「Claudeの勝ち」で終わりますが、事業者の視点で読むと、もっと重要な構造が見えてきます。両AIが見事にこなしたのは旅行の発見と提案であって、予約と決済ではないという事実です。
記事の中で記者は、実際にツアーを予約したとは書いていません。Claudeのアドバイスを「いざ旅立つときのために覚えておく」と述べるにとどまります。つまりAIは候補の絞り込みと旅程の設計までを担い、最後の購買は人間の手に残されているのです。この線引きは、いまのエージェンティックコマースが置かれた現実を象徴しています。
実際、OpenAIは2026年3月、ChatGPT内での直接決済「Instant Checkout」を主役の座から外し、加盟店のアプリやサイトへ誘導する方式へ舵を切りました。チャット内で発見し、決済は事業者側で完結させる。この方針転換を受けて、ExpediaやBooking Holdingsの株価が上昇したとSkiftは報じています。AIが旅行予約のすべてを奪うという初期の警戒は、ひとまず後退した形です。
旅行という商材の特性も、この断層を深くしています。ホテル、ツアー、交通は在庫が水物で、日付や人数、キャンセル規定が複雑に絡みます。アパレル1点を買うのとは難易度が違い、AIが最終確定まで自動で握るには信頼設計の壁が高いのが実情です。だからこそ、AIは発見と提案で価値を出し、予約導線は事業者のプラットフォームへ橋渡しする役割分担が、当面の現実解になっています。
裏を返せば、AIに発見してもらえなければ、予約の土俵にすら上がれないということでもあります。記者のプロンプトで上位に表示された4本のツアーは、星評価とレビュー件数という構造化データを持っていたからこそAIに拾われました。AI経由の流入が小売全体で四半期前年比約400%、特定リテーラーでは2,000%増という報告もあるなか、AIに見つけられる体験設計が、これからの集客の前提条件になりつつあります。
OTA・アクティビティ事業者が備えるべきこと
この実験を旅行・予約事業者の立場で読むと、宿題は明快です。自社の在庫がAIエージェントにとって「読みやすく」「選びやすい」状態になっているか、という一点に集約されます。
ViatorがChatGPTとClaudeの双方に組み込まれたのは、同社が在庫・価格・評価・所要時間といった情報を構造化し、AIが参照できる形で外部に開いていたからです。Viatorの親会社Tripadvisorのアクティビティ群もClaude内で利用可能になっており、AIプラットフォームの中に直接「売り場」を持つ動きが加速しています。自社サイトへの集客を待つのではなく、AIが滞在する場所に在庫を届ける発想への転換が問われています。
ここで効くのが、星評価・レビュー件数・所要時間・キャンセル規定といったメタデータの整備です。記者の実験でAIに選ばれた体験は、いずれも判断材料となる構造化データを備えていました。商品説明が画像と散文だけで、機械可読な属性に乏しい在庫は、AIの比較土俵に乗りにくくなります。MCPやエージェンティックコマースの各種プロトコルに対応する技術投資も、この延長線上にあります。
同時に、Targetなど先行リテーラーが死守しているのが顧客との直接的な関係性です。発見と提案をAIに委ねても、予約データやロイヤルティ、リピート接点は自社に残す。露出は外部AIへ、関係は自社にというバランス感覚は、OTAやアクティビティ事業者にもそのまま当てはまります。AIに選ばれる準備と、選ばれた後に関係を育てる仕組みは、両輪で考える必要があります。
まとめ
ChatGPTとClaudeに京都旅行を計画させた今回の実験は、エージェンティックトラベルが発見と提案の領域で実用段階に達したことを示しました。同時に、予約と決済はなお事業者側に委ねられており、AIと事業者の役割分担が当面の現実解であることも浮き彫りにしています。
旅行・予約事業者にとっての分かれ目は、在庫をAIが読める形に整え、AIが集まる場所に届けられるかどうかです。AIが旅の入口になる流れは、もはや実験を越えて動き始めています。




