Cleverbridge、VisaとRevolutでフランス初のAIエージェント決済を本番チェックアウトで完了:Trusted Agent ProtocolとPayment Passkeyで欧州のSCAに対応
ソフトウェア販売基盤のCleverbridgeが、VisaとRevolutとともにフランス初のAIエージェント起点の決済を完了しました。Trusted Agent ProtocolとPayment Passkeyの役割、「初」の範囲、未解決の責任分担まで、エージェント決済に備えるEC事業者向けに解説します。
この記事のポイント
- ソフトウェア企業向けの販売基盤を運営するCleverbridgeは2026年9月24日、VisaとRevolutとともに、AIエージェントが起点となった決済をフランスで初めて本番のチェックアウトで完了したと発表しました。エージェントの識別にはVisa Trusted Agent Protocol、本人認証にはVisa Payment Passkeyが使われています
- 重要なのは、「加盟店がどのエージェントと取引しているか分かる」「発行銀行が決済の主導権を保つ」という2つの条件を、欧州の強力な顧客認証(SCA)の下で満たした点です。CleverbridgeのCEOは、この2条件をエージェンティックコマースが量を扱えるようになる前提と位置づけています
- 一方で「初」はフランス・Visa・Passkey認証という限定付きで、消費者向けの一般提供も始まっていません。EC事業者にとっての論点は、正規のエージェントを見分けて受け入れる準備と、チャージバック責任の行方を注視することです
フランス初のエージェント決済で、誰が何をしたのか

Cleverbridgeは、VisaおよびRevolutとともに、Passkeyで認証された消費者向けカードによるAIエージェント起点の決済をフランスで初めて本番環境で完了しました。
www.businesswire.com2026年9月24日、ソフトウェア・テクノロジー企業向けのマネージド・グローバルコマース基盤を提供するCleverbridgeは、フランスで初めてPasskeyで認証されたエージェント決済を、本番のチェックアウトで完了したと発表しました。今月初めに公表されたVisa、Revolutとのパイロットの一環です。
Visaのテスト用エージェント「My Agent」が購入を開始し、CleverbridgeはそれをVisaのTrusted Agent Protocolによって承認済みのエージェントだと識別してチェックアウトを完了しました。取引はVisa Payment Passkeyで認証され、Revolutがフランスの消費者向けカードで決済を承認しています。全体はVisa Intelligent Commerce(VisaのAIコマース向け取り組みの総称)の上で、既存の決済インフラを使って実行されました。
| 登場者 | 担った役割 | 使われた仕組み |
|---|---|---|
| AIエージェント(Visaのテスト用エージェント「My Agent」) | 購入を開始 | Visa Intelligent Commerce |
| 加盟店(Cleverbridge) | 承認済みエージェントと識別し、チェックアウトを完了 | Trusted Agent Protocol、Agentic Directory |
| 認証 | 取引を本人の意思に結びつけ、欧州のSCA要件に対応 | Visa Payment Passkey |
| 発行銀行(Revolut) | フランスの消費者向けカードで決済を承認 | 既存のVisaカードネットワーク |
Cleverbridgeは2005年創業で、年間10億ドル超の取引を240以上の市場で処理しています。顧客にはAutodesk、SUSE、Tenable、Veeam、Shureが名を連ねます。ソフトウェア企業に代わって決済、請求、税務、コンプライアンスを引き受ける販売代行の事業者で、今回の「加盟店」はこのCleverbridgeです。
条件1:加盟店が「どのエージェントか」を知っている
発表の中心にあるのは、Richard Stevenson CEOの次の発言です。
今回、加盟店は自分がどのエージェントと取引しているかを把握しており、顧客の銀行は決済の主導権を保ち続けました。エージェンティックコマースが実際の取引量を担えるようになる前に、それが成り立っていなければなりません。
1つ目の条件を支えるのが、Visaが2025年10月にCloudflareと共同で公開したTrusted Agent Protocol(TAP)です。AIエージェントが加盟店のサイトにアクセスするとき、エージェント固有の暗号署名を付けて「購入の意図を持つ信頼されたエージェントである」ことを伝えます。加盟店は、Visaが管理する承認済みエージェントの一覧(CleverbridgeはAgentic Directory、VisaはAgent Directoryと表記)と照らし合わせ、正規のエージェントと悪意ある自動化トラフィックを区別できます。
なぜこれが前提条件になるのか。従来のECサイトは、人間ではない自動アクセスをボットとして弾く設計が基本でした。エージェントが買い物をする時代には、その防御が正規の購入まで止めてしまいます。逆にすべてを通せば、不正な自動購入や認証情報の窃取に門を開くことになります。「誰か分からない自動アクセス」を「身元が確認された取引相手」に変える仕組みがなければ、加盟店はエージェント経由の注文を受け入れる判断ができません。
この問題が机上の話ではないことを、同じ9月24日のニュースが示しています。The Paypersによると、AmazonはMetaのAIエージェント「Muse」によるAmazon.comでの買い物をブロックしました。Amazonは、Metaから事前の通知がなかったこと、Museがブラウジング時に自らの身元を明かさないことを理由に挙げています。Metaは、Museはユーザーのパスワードや決済手段を見られない設計だと反論しています。
2つの出来事を並べると対照がはっきりします。身元を名乗らないエージェントは締め出され、身元を証明したエージェントは取引を完了できました。Cleverbridgeは7月の発表で、TAPによって承認済みエージェントが自社の基盤や商品情報にどうアクセスできるかを、既存のリスク管理の枠組みの中で定義できるようになったと説明しています。エージェントを一律に拒むか通すかではなく、相手ごとにアクセスの範囲を決められることが、加盟店にとっての実質的な価値です。
条件2:発行銀行が決済の主導権を保つ
2つ目の条件は、欧州特有の規制と深く結びついています。EUの決済サービス指令(PSD2)は、オンライン決済に強力な顧客認証(SCA)を求めています。SCAは、パスワードなどの知識、スマートフォンなどの所持、指紋や顔などの生体のうち2つ以上を組み合わせて本人を確認する仕組みです。人間がその場で操作することを前提にしたルールで、エージェントが代わりに買う場面にどう当てはめるかが課題でした。
Visaの答えがVisa Payment Passkeyです。スマートフォンのロック解除と同じ感覚で、生体認証によって決済を承認できる認証手段で、生体データは端末の外に出ません。Crowdfund Insiderの報道によれば、今回の取引ではPasskeyが決済を検証済みのカード保有者と、事前に与えられた明示的な指示に結びつけました。チェックアウトの瞬間に人がカード番号を入力したり、承認ボタンを押したりはしていません。カード番号はトークン(決済用の代替番号)に置き換えられ、エージェントが生のカード情報に触れることもありませんでした。
ここで効いてくるのが「発行銀行が主導権を保つ」という点です。Revolutは通常のカード決済と同じく承認の判断を持ち続け、不正監視などVisaの既存の保護も働いたままでした。The Paypersは、このパイロットの目的を、別の決済レールを作ることではなく、エージェント主導の引き落としが既存のSCA、トークン化、発行銀行の管理の枠組みの中で機能するかを確かめることだったと整理しています。
Cleverbridgeの発表には、もう一つ踏み込んだ一文があります。Visaは、Passkeyが購入の意図を保証し、購入時のエージェントの誤りから消費者を守り、AIを口実にしたチャージバック請求から加盟店を守ると述べているというのです。チャージバックとは、カード保有者の申し立てによって決済が取り消され、加盟店が売上を失う仕組みです。「AIが勝手に買った」という申し立てにどう対処するかは加盟店の大きな懸念で、それに答えようとする主張だと読めます。ただし、これはVisaの説明を加盟店側が紹介したもので、実際の紛争処理ルールとして公表されたものではありません。
「フランス初」はどこまでの初なのか
見出しの「初」には限定が付いています。The Paypersは、今回がVisaとPasskey認証を使ったフランスでの初の事例であって、欧州初のエージェント決済ではないと明記しています。欧州での先行事例は、2026年3月にSantanderとMastercardが完了した取引で、こちらはMastercard Agent Payという別系統の仕組みでした。
Visa側の流れの中でも、今回の取引は単独の出来事ではありません。
| 時期 | 出来事 | 範囲 |
|---|---|---|
| 2025年10月 | VisaがCloudflareと共同開発したTrusted Agent Protocolを公開 | 加盟店がエージェントを識別する仕様 |
| 2026年3月2日 | SantanderとMastercardが欧州初のAIエージェントによるエンドツーエンド決済を完了 | Mastercard Agent Pay、管理された環境 |
| 2026年3月17日 | VisaがAgentic Readyプログラムを欧州から開始 | まず発行銀行の準備に焦点 |
| 2026年7月2日 | Visaが欧州でのライブ取引を発表。Cleverbridgeも自社環境での取引を発表 | 発行銀行30社超、加盟店にlastminute.com、Frasers、Cleverbridge、BrickDepot |
| 2026年7月 | Worldline・ING・Visaの欧州での取引、HSBC UKの英国での取引が相次いで公表 | いずれもPayment Passkeyで認証 |
| 2026年9月7日 | RevolutとVisaがフランス初のPasskey認証エージェント決済を公表 | 加盟店はCleverbridge |
| 2026年9月24日 | Cleverbridgeが同取引を加盟店側から発表 | Revolutアプリでの一般提供は未開始 |
Visaは3月にAgentic Readyプログラムを欧州から開始し、7月2日のVisa Payments Forumでは、30社を超える欧州の発行銀行がエージェントによる取引を完了したと発表しました。この時点でRevolutは発行銀行の一覧に、Cleverbridgeは参加加盟店の一覧にすでに名前がありました。Biometric Updateは同じ7月に、Worldline、ING、VisaがPayment Passkeyで認証するエージェント決済を完了したと報じています。
今回の新しさは、国単位の初というより、段階が一つ進んだことにあります。Cleverbridgeは7月の段階ではエージェント起点の取引を「自社環境で」完了したと説明しており、今回はそれを実在する消費者向けカードを使った市場での取引に持ち込みました。Stevenson CEOが「研究室ではなく本番の市場で機能しなければならない」と強調したのは、この差を指しています。
それでも、一般の消費者が使える段階ではありません。The PaypersとCrowdfund Insiderはいずれも、この機能がRevolutのアプリではまだ有効化されておらず、管理されたパイロットの一部だったと伝えています。購入を開始したのもVisaのテスト用エージェントで、ChatGPTやGeminiのような一般向けAIアシスタントではありません。
ソフトウェア販売の代行業者が先に動いた理由
最初の加盟店がソフトウェアの販売代行だったことにも意味があります。Cleverbridgeは発表の中で、承認済みAIエージェントへの対応を、顧客企業ごとの個別プロジェクトにするのではなく、自社が運営するコマース環境に組み込んでいると説明しています。Cleverbridge経由で販売するソフトウェア企業は、自社で開発しなくても、エージェント経由の注文を受けられる状態に近づきます。
加盟店が1社ずつTAPの検証やエージェントの受け入れ方針を実装するのは、多くの事業者にとって重い負担です。Visaも7月の発表で、実装はCloudflareやAkamaiといったインフラ事業者が支えると説明していました。エージェント対応は、個々の店舗より、決済代行、販売代行、CDNのような多くの加盟店を束ねる層から先に広がる構図が見えてきます。
解決していない問い
パイロットの成功は、運用上の問いをすべて片付けたわけではありません。The Paypersは未解決の論点として、エージェントに委ねる権限の範囲、加盟店の許可リストの管理、支出上限、カードを使ったのが人ではなくソフトウェアである場合のチャージバック責任、Passkeyの紐づけをブラウザではなくエージェントのセッションにどう適用するかを挙げています。
今回の発表で開示されていない項目も整理しておきます。
- 購入された商品、金額、取引件数:未開示
- チャージバック時の責任分担の具体的なルール:未開示
- Revolutアプリでの一般提供の時期:未開示
- 一般向けAIアシスタントからの購入に対応する時期:未開示
- 加盟店側の導入費用や手数料:未開示
EC事業者はここから何を読み取るか
今回の取引からは、エージェント決済の設計が向かう方向が読み取れます。
一つ目は、エージェントを「弾く」から「見分けて受け入れる」への転換です。ボット対策をそのままにしておくと、正規のエージェントからの注文まで失う可能性があります。Amazonのように身元を明かさないエージェントを拒む判断も、TAPのような識別の仕組みがあって初めて筋の通った線引きになります。自社のボット対策やWAFの設定が、署名付きのエージェントを区別できるかを確認しておく価値があります。
二つ目は、認証と承認の主導権がカード会社と発行銀行の側に残る設計だという点です。日本でもEMV 3-Dセキュアによる本人認証が求められており、欧州のSCAと同じく「本人がその場で操作する」ことを前提にした仕組みです。Visaが欧州で示したPasskeyによる解決策は、同様の認証ルールを持つ市場にとって参考になります。
三つ目は、自社で作るか、基盤に任せるかの判断です。Cleverbridgeのように販売基盤や決済代行が対応を組み込めば、個々の事業者の負担は小さくなります。利用しているカートや決済代行がTAPやエージェント決済への対応をどう計画しているかを、今のうちに確認しておくのが現実的な一歩です。
まとめ
Cleverbridge、Visa、Revolutの取引は、エージェント決済が「技術的に動くか」の段階から「規制と責任の枠組みの中で動くか」の段階へ進んでいることを示しました。加盟店がエージェントの身元を知り、発行銀行が承認を握るという2つの条件は、欧州の厳しい認証ルールの下でも両立できることが確認されています。
次の焦点は、テスト用エージェントではなく一般向けAIアシスタントから、パイロットではなく通常のアプリから、同じ取引が成立するかどうかです。あわせて、「AIが勝手に買った」という紛争を誰が負担するのか、そのルールがどこまで明文化されるかに注目です。


