2026年6月23日

DaVinci Commerce「Agentic BrandStore Enterprise」一般提供 発見から購買までをChatGPT等のAI上で完結

この記事のポイント

  1. DaVinci CommerceがAccentureの出資を背景に、発見から購買までをChatGPTやGeminiなど複数のAIプラットフォーム上で完結させる「Agentic BrandStore Enterprise」の一般提供を開始
  2. ChatGPTが1日5,000万件のショッピング目的のクエリを処理する規模に達し、AIが検索に代わる新しい買い物の入り口になりつつある
  3. 鍵となるのは商品データに「会話の文脈」を付与すること。既存のフィードをそのまま出すだけではAIに発見されない

AIが新しい店舗になる、その発見層をめぐる動き

2026年6月22日、AIコマースプラットフォームを手がけるDaVinci Commerceが、新製品「Agentic BrandStore Enterprise」の一般提供開始を発表しました。3月にAgentic BrandStoreの体験層を世に出してから、わずか3か月でのアップデートです。今回の発表は、ブランドの商品が「発見され、体験され、購買される」までの全行程を、ChatGPTをはじめとする複数のAIプラットフォーム上で完結させる点に踏み込んでいます。

数字が動きの背景を物語ります。ChatGPTは現在、ショッピングを目的としたクエリを1日5,000万件処理し、週間アクティブユーザーは9億人に達したと報じられています。さらにAdobe Analyticsの調査によれば、米国の小売サイトへのAI経由トラフィックは2026年第1四半期に前年比393%増を記録し、しかもそのトラフィックは非AI経由に比べて42%高い確率で購買に至っています。テストチャネルというより、すでにインフラに近い段階に入ったと言えます。

それでも、大半のブランドはこの新しい入り口にほとんど備えができていません。Forbesに寄稿したSandy Carter氏は、検索がショッピングの主要な舞台から退き、会話型AIがその座を奪いつつあると指摘しています。需要の急拡大とブランド側の準備不足のあいだに開いた隙間こそ、先行者が永続的な優位を築ける窓になっている、というわけです。

なぜ既存の商品データではAIに見つけてもらえないのか

この記事で最も重要な論点は、技術仕様ではなく「会話の文脈」という考え方にあります。消費者がChatGPTに「今週末、友人の結婚式に出るんだけど少し暑くなりそう。何を着ればいい」と尋ねるとき、その人は商品名で検索していません。ニーズを言葉で語っているのです。

ところが、ほとんどの商品コンテンツは検索エンジン向けに書かれています。成分表、技術スペック、型番。こうした情報は、消費者がAIに話しかける言葉とは噛み合いません。質問の仕方と商品データの書かれ方がずれていれば、ブランドは候補にすら上がらないのです。実際、既存の商品データをそのままGoogleのMerchant CenterやOpenAIのアフィリエイト連携フィードに送り込んだブランドは、汎用的なリスティングが大規模言語モデルの検索ロジックを通過しないという現実に直面しています。

DaVinci Commerce創業者でCEOのDiaz Nesamoney氏は、この弱点を発見層(ディスカバリー)の問題として整理します。「LLMは多くの消費者が買い物を始める場所になっている」とし、「発見されるには、文脈で強化された商品コンテンツが必要だ。ACP/UCP/GEOで見つけてもらい、ブランド化されたストアフロント体験で選んでもらう。これらがそろって初めて、先行者がそのプラットフォームのカテゴリーリーダーになれる」と述べています。商品リストは「それが何か」を説明できても、「どう使われ、利用者が何を語っているか」までは捉えられません。欠けているのはフィードの精度ではなく、文脈そのものなのです。

Agentic BrandStore Enterprise が解く二つの層

今回の製品の核となるのがContent Enrichment Engineです。これは、ブランドの既存カタログを起点に、SKUごとに複数のソースから文脈を集めて付与する仕組みです。引用元は検証済みのカスタマーレビュー、RedditやYouTubeなどソーシャル上の会話、GEOプラットフォームからの消費者インテント信号、ブランドサイトのライフスタイルコンテンツ、そして消費者が実際にLLMへ投げている質問のリアルタイムデータまで及びます。多数のコンテンツエージェントが群れ(スウォーム)のように並行して動き、RAG(検索拡張生成)と文脈エンジニアリングの設計で、回答を正確かつ最新に保ちます。

この強化されたコンテンツが、性質の異なる二つの出力に分かれる点が設計上の妙です。

ひとつ目が発見層です。強化された商品説明はACP+、UCP+として各LLMプラットフォームへ送られ、同時に小売サイトのPDP(商品詳細ページ)にも反映されてGEO+としてクローラーに拾われます。それぞれの「+」は、消費者が実際に尋ねる言い回しに合わせて知性を上乗せしたフィードであることを意味します。

ふたつ目が体験層、すなわちストアフロントです。同じ強化済みコンテンツ、全レビュー、全ソーシャル信号がベクトル化されて保存され、Agentic Storefront内の「Answer Agent」を動かします。フィード提出が文字数やフィールドの制約を受けるのに対し、ストアフロントは全文脈データにアクセスできるため、消費者のほぼあらゆる質問に答えられます。重要なのは、CRMデータやパーソナライゼーション文脈、独自のブランドコンテンツはDaVinciのプラットフォーム外に出ない設計だという点です。LLMに渡るのは回答だけで、元データは渡りません。

エンタープライズ対応として、Gemini・Claudeなど複数LLMへの対応、MCPサーバー経由での自社サイト・モバイルアプリへのチャット統合、アップロードしたガイドラインに沿って非準拠コンテンツの公開を自動でブロックするコンプライアンスチェック、複数の社内システム(PIM、レビュー基盤、CRM)にまたがるコンテンツをエージェントが連携して取り込むマルチエージェント機能、購買前の信頼形成を助けるレビュー機能なども加わりました。提供は3階層で、ノーコードのStudioを使えばおよそ2〜4週間でストアフロントを立ち上げられます。

競合とどう違うのか

AI時代のブランド可視性をめぐっては、6月だけでも複数の発表が相次ぎました。比較すると、各社が「同じ問題の別の面」を取りに来ていることが見えてきます。

項目DaVinci Agentic BrandStore EnterpriseAdobe Brand VisibilityPacvue Prism
主な役割AI上のブランド店舗の構築と購買完結AI検索での可視性の計測と改善横断チャネルのメディア計画と計測
商品データの扱いContent Enrichment Engineで会話文脈を付与コンテンツのGEO/AEO最適化提案メディア配信データの統合
対応サーフェスChatGPT(ACP+)、Gemini(UCP+)、自社サイト、PDP(GEO+)ChatGPT、Google AI Mode、Copilot、PerplexityChatGPT、各種DSP、SNS、小売メディア
購買まで完結可能(Storefront内で発見から購買まで)対象外(可視性が主眼)対象外(メディア計測が主眼)

Adobeは6月17日にBrand Visibilityを発表し、SemrushのデータをLLM Optimizerに重ねて、ChatGPTやCopilot、Perplexityなどでブランドがどう言及されるかを計測・改善する方向に寄せています。一方Pacvueは6月22日にPrismを投入し、会話型を含む横断チャネルのメディアを計画・計測する「アジェンティックコマースグリッド」を掲げました。これらが可視性の計測やメディア運用に軸足を置くのに対し、DaVinciは発見から購買までを店舗として一気通貫で構える点に独自性があります。可視化だけでは売れない、というのが同社の立場です。

EC事業者が今動くべきこと

実務に落とすと、優先順位ははっきりしています。最初の一歩は、AI向けに送り出す前提で自社の商品データを点検することです。型番や成分の羅列ではなく、「どんな場面で、誰が、どう使うか」という会話の文脈を商品データに織り込めているかを確認します。AIに見つけてもらえるかどうかは、ここでほぼ決まります。

次に、複数のAIプラットフォームへの最適化を一度に考える発想が要ります。ChatGPTはACP系、GeminiはUCP系と入り口の仕様が分かれており、自社サイトのPDPはGEOの観点でクローラーに拾われる必要があります。個別に最適化を積み上げるより、強化済みの商品コンテンツを一元的に持ち、各サーフェスへ展開する設計のほうが運用は軽くなります。AnswerをLLMに渡しつつ元データは外に出さないという情報設計も、CRMや独自コンテンツを抱えるブランドにとっては検討に値します。

導入実績としてNestle、Diageo、Giant Eagle、Nordstromといった大手の名が挙がっており、先行者がプラットフォーム上の定位置を押さえようとする動きはすでに始まっています。自社が出遅れているかどうかは、ChatGPTやGeminiに自社カテゴリーの質問を投げて、ブランドが候補に挙がるかを試すだけでも肌感がつかめます。

まとめ

DaVinci Commerceの今回の発表は、「AIが新しい店舗になる」という抽象的なスローガンを、発見層・体験層・購買という具体的な構造へ落とし込んだ点に意味があります。商品データに会話の文脈を付与し、ACP・UCP・GEOで見つけてもらい、ストアフロントで選んでもらう。この一連の流れが製品として組み上がったことで、ブランドにとっての論点は「AI上に店を構えるか否か」から「どう構えるか」へ移りました。

ChatGPTが1日5,000万件のショッピングクエリを捌く規模を前提にすれば、AI可視性の確保はもはや実験ではなく運用課題です。今後は対応LLMの拡大、Accenture経由での導入事例、そしてAdobeやPacvueといった隣接プレイヤーとの棲み分けが、このカテゴリーの輪郭を決めていくことになります。