Gap Inc.がOld NavyとBanana Republicに会話型ショッピングエージェントを導入、AltaとDaydreamも使う「検索の次」の設計
Gap Inc.がgap.com開設30周年に、自社の会話型エージェントとAlta Daily・Daydreamとの連携を発表しました。検索ボックスを残したまま会話へ移る段階的な設計、消費者の信頼の課題、EC事業者が整えるべき商品データを解説します。
この記事のポイント
- Gap Inc.は2026年10月5日、gap.com開設30周年に合わせてAIを使った買い物体験を発表しました。Old NavyとBanana Republicは自社サイトとアプリに会話型ショッピングエージェントを置き、Gapブランドは外部アプリのAlta Daily、全ブランドはAIファッション検索のDaydreamでも見つけてもらえるようにします
- 検索ボックス・フィルター・商品グリッドを捨てるのではなく「補う」と位置づけ、自社の会話型エージェント、外部のスタイリングAI、3月に始めたGoogle Geminiでの購入という複数の入口を並行して持つ設計です
- 消費者の信頼はまだ追いついておらず、AIの推薦で後悔した買い物の45%が衣料品・靴という調査もあります。EC事業者には、意図を受け止められる商品データと、入口ごとの成果を測る仕組みを先に整えることが求められます
gap.com開設から30年、検索窓の隣に「会話」を置く

月曜日から、顧客はAlta DailyとDaydreamのプラットフォームでおすすめを受けられるようになります。Banana RepublicとOld Navyも会話型ショッピングエージェントを立ち上げます。
www.retaildive.com1996年、Gapは米国のファッション小売としては早い時期にECサイトを開きました。それからちょうど30年、Gap Inc.は10月5日にサンフランシスコで開かれたSF Tech Weekのキックオフで、AIを使った新しい買い物体験を発表しました。登壇したのはCTO(最高技術責任者)のSven Gerjets氏です。
Gap Inc.のプレスリリースは、今回の体験を「検索ボックス、フィルター、商品グリッドといった従来のEC機能を補うもの」と説明しています。置き換えではなく補完という言い方が、今回の発表を読み解く鍵になります。
Gerjets氏は「30年前、私たちはgap.comを立ち上げ、顧客とブランドの関わり方を一変させた。そして今、AIは人々のファッションの買い方を考え直す新しい機会を生んでいる」と述べました。発見、ひらめき、そして購入という行動までを、より摩擦なくつなぐ体験を目指すといいます。
中身は大きく三つに分かれます。Old NavyとBanana Republicの自社サイト・アプリに入る会話型エージェント、Gapブランドが組むAIスタイリングアプリのAlta Daily、そしてGap Inc.の全ブランドが並ぶAIファッション検索のDaydreamです。Retail Diveによると、AltaとDaydreamからの推薦は発表当日の10月5日から利用できます。
自社エージェントと外部プラットフォーム、ブランドごとに違う入口
今回の発表で目を引くのは、ブランドごとに入口が違うことです。Gap Inc.は4ブランドを抱えていますが、全ブランドに同じAI機能を一斉に載せたわけではありません。
| 入口 | 対象ブランド | 顧客ができること | 運営 |
|---|---|---|---|
| 会話型ショッピングエージェント | Old Navy、Banana Republic | 欲しいものを自然な言葉で伝え、商品案と推薦を受け取る | Gap Inc.(自社サイト・アプリ) |
| Alta Daily | Gap | 手持ちの服や好みをもとにGap商品入りのコーディネート提案を受け、アバターで試着する | Alta(外部アプリ) |
| Daydream | Gap、Banana Republic、Old Navy、Athleta | 日常の言葉で探し、関連する商品を見つける | Daydream(外部プラットフォーム) |
| Google AI Mode・Geminiアプリ(2026年3月発表) | Gap、Banana Republic、Old Navy、Athleta | AIの中で商品を探し、UCPで購入まで進む |
Old NavyとBanana Republic:キーワードに翻訳させない
自社で会話型エージェントを置くのは、Old NavyとBanana Republicの2ブランドです。顧客は欲しいものを自然な言葉で伝え、関連する商品案や推薦を受け取ります。
プレスリリースはこの狙いを、顧客に「欲しいものをキーワード、カテゴリー、フィルターに翻訳させる」ことをやめる、と表現しています。たとえば「来月の友人の結婚式に着ていける、きれいめだけど堅すぎない服」という頭の中のイメージは、従来のECでは「ワンピース」「ネイビー」「Mサイズ」といった絞り込み条件に分解しなければ商品にたどり着けませんでした。会話型エージェントは、この分解作業を顧客から引き取ります。
一方で、発表には開示されていない点も多く残ります。エージェントがどのAIモデルや外部ベンダーで動いているのか、会話の中でカートへの追加や決済まで完結するのか、米国外で提供するのかは、いずれも未開示です。発表はあくまで「発見」の体験に焦点を当てています。
Alta Daily:クローゼットとアバターから入る
Gapブランドが組むAlta Dailyは、Jenny Wang氏が創業したAIスタイリングアプリです。利用者は手持ちの服を撮影してデジタルのクローゼットを作り、予定、予算、天気予報などをもとにその日のコーディネートを提案してもらいます。提案には手持ちの服とブランドの商品の両方が入ります。
Menlo Venturesが2025年6月に1,100万ドルのシードラウンドを主導した際の説明では、Altaはローンチから2か月で1日27万件超のコーディネートが生成され、4,000以上のブランドと提携していました。今回のGapとの取り組みでは、利用者が自分のスタイルやイメージをGap商品の入ったコーディネートに変え、Altaのアバターで試着できます。
Daydream:自然言語で探すファッション専門の検索
Daydreamは、Nordstrom、Sephora、Stitch Fixなどで要職を務めたJulie Bornstein氏が率いるAIファッション検索です。TechCrunchによると、2024年に5,000万ドルのシード資金を調達し、2025年6月にチャット型の検索を一般公開しました。公開時点で8,000以上のブランドが並び、商品をクリックすると販売元のサイトに移って購入する仕組みで、Daydreamは売上の一部を受け取るモデルでした。
Daydreamには、Gap、Banana Republic、Old Navy、Athletaの全ブランドの商品が載ります。Gap Inc.にとっては、自社サイトを訪れる前の段階で、ファッション好きが集まる外部の検索に商品を置いておく施策です。Gap Inc.とAlta、Daydreamとの間の手数料などの条件は未開示です。
3月のGemini連携との関係
外部のAIに商品を置く動きは今回が初めてではありません。Gap Inc.は2026年3月、GoogleのUCP(Universal Commerce Protocol、AIの中で購入まで完結させる仕組み)を採用し、GoogleのAI ModeとGeminiアプリで4ブランドを購入できるようにすると発表しています。
並べてみると、汎用AIのGeminiでは「購入」、ファッション専門のAltaやDaydreamでは「発見とスタイリング」、自社サイトでは「会話による商品探し」と、入口ごとに担う役割が分かれています。プレスリリースが最後に「エージェンティックコマースの探求を続け、顧客が買い物をしたい場所ならどこでも応える」と書いているのは、この分散を意図的に進めているという宣言として読めます。
なぜ一気に置き換えないのか
検索ボックスを会話に置き換えず、隣に並べる。この慎重さの背景には、足元の業績と消費者心理の両方があります。
2026年度第2四半期決算(8月1日締め)で、Gap Inc.の売上高は前年比2%減の37億ドルでした。オンライン売上は1%減ながら全体の35%を占めます。Gapブランドが既存売上(comparable sales)で2桁成長を続ける一方、Old Navyは苦戦し、同じ日に新CEOの就任が発表されました。売上の3分の1を超えるオンラインで、慣れた検索とフィルターを急に取り上げるのは、得られるものより失うものが大きい判断になります。
Gerjets氏自身も、AIを使った買い物に顧客が慎重であることを認めています。Retail Diveへのメールで同氏は「AIは買い物をより簡単で直感的にするべきで、複雑さを増やしたり、顧客から選択を奪ったりしてはならない」と答えました。技術はブランドと顧客の関係を「置き換えるのではなく支える」ものだとも述べています。
消費者の信頼はまだ追いついていない
推進側の言葉だけで判断するのは早計です。会話型ショッピングが実際にどれだけ使われ、どれだけ購入につながるのかについて、Gap Inc.は利用率や転換率の目標を示していません。
外部の調査は、むしろ慎重な数字を示しています。SmartCustomerが米国の消費者約1,200人に行った調査をRetail Diveが報じたところでは、76%が過去1年にAIを使って買い物をした一方、89%はAIの推薦を完全には信頼していません。回答者の3分の1はAIの推薦で後悔する買い物をしており、その45%は衣料品と靴でした。サイズや素材感が画面越しに伝わりにくいアパレルは、AIの推薦が外れやすい領域でもあります。
自社エージェントに特有のリスクもあります。SynchronyとOxford Economicsが米国の消費者2,000人に行った調査をCX Diveが報じた記事によると、半数以上はすでに付き合いのあるブランドのAIショッピングエージェントなら信頼すると答えました。しかし4人に3人は、AIが質の悪い商品を薦めたら、そのブランドでの買い物を減らすかやめると答えています。
この二つの数字は表裏の関係にあります。自社のエージェントは、ブランドへの信頼を足場に使ってもらいやすい反面、推薦の失敗がそのままブランドの評価に跳ね返ります。外部のAltaやDaydreamで推薦が外れても、顧客の不満はまずプラットフォームに向かいます。Gap Inc.が入口を分け、自社エージェントをまず2ブランドに絞ったことは、このリスクの配分としても筋が通っています。
EC事業者が読み取れること
Gap Inc.の規模でなくても、今回の設計から持ち帰れることがあります。
最も重要なのは、会話を受け止めるための商品データです。「結婚式」「雨の日」「予算1万円」といった言葉で探されるとき、AIが参照するのはカテゴリーや色の属性だけではありません。着用シーン、季節、素材の特徴、合わせやすいアイテムといった情報が商品データに入っていなければ、自社のエージェントでも外部のAIでも、意図に合う商品を返せません。会話型の入口が増えるほど、商品データの書き方が売り場の品揃えと同じ重みを持つようになります。
入口の分け方も参考になります。自社サイトに会話型エージェントを置くか、ファッション専門の外部プラットフォームに商品を出すか、GeminiやChatGPTのような汎用AIに対応するかは、二者択一ではありません。Gap Inc.のように、ブランドの立ち位置や顧客層に合わせて組み合わせを変える考え方は、複数ブランドを持たない事業者でも商品カテゴリーごとに応用できます。
最後に測り方です。会話型の入口を足すなら、従来の検索経由と比べて、購入率、客単価、返品率がどう変わるかを分けて追えるようにしておく必要があります。SmartCustomerの調査が示すように、推薦の外れは返品や不信として後から表れます。Gap Inc.も成果の指標は開示していません。成果を自社で検証できる準備が、導入の前提になります。
まとめ
Gap Inc.の発表は、検索・フィルター・商品グリッドという30年続いた買い物の形を、会話へ一気に置き換えるものではありませんでした。自社の会話型エージェント、AltaとDaydreamという外部のファッションAI、Geminiでの購入と、入口を分けながら少しずつ会話の比重を増やしていく進め方です。
次に注目すべきは、Old NavyとBanana Republicのエージェントが購入までを担うようになるか、そしてGap Inc.が会話経由の成果をいつ、どの数字で語るかです。プレスリリースは将来について「推薦を超えて、顧客の代わりに行動する体験」に言及しています。その段階に進めるかどうかは、今回の入口で顧客の信頼を積み上げられるかにかかっています。


