お問い合わせ
小売・事例2026年10月6日

TikTokが「Buy Direct」とAIの「Shopping Assistant」を米国で発表:TikTok Shopを通さずブランドから直接買える仕組みとEC事業者への影響

TikTokがブランドから直接買えるBuy DirectとAIのShopping Assistantを発表しました。TikTok Shopとの違い、UCPとMerchant of Recordの仕組み、未開示の条件をEC事業者向けに解説します。

TikTokが「Buy Direct」とAIの「Shopping Assistant」を米国で発表:TikTok Shopを通さずブランドから直接買える仕組みとEC事業者への影響

この記事のポイント

  1. TikTokは2026年10月5日、For Youフィードからブランドへワンクリックで直接購入できる「Buy Direct」と、会話型AIエージェント「Shopping Assistant」を米国で発表しました。Salesforce、Shopify、Shoplazza、Stripeなどと構築する、エージェンティックコマース体験の第一弾です
  2. Buy DirectはTikTok Shopとは別の仕組みで、ブランドが販売者(Merchant of Record)のまま、UCP(Universal Commerce Protocol)経由で自社のシステムが注文を処理します。TikTok Shopに出店しなくてもアプリ内で購入が完結します
  3. EC事業者にとっては、UCP対応と商品データの整備がTikTok内で売るための新しい条件になります。手数料と対象事業者の条件は未開示で、現時点は資格ベースのテスト段階です

TikTokが発表した「エージェンティックコマース」の第一弾

動画を見て欲しくなった商品を、TikTokを出ずにブランドから直接買う。TikTokは10月5日、ニューヨークで開かれたAdvertising Week New York 2026に合わせて、この体験を実現する2つの機能を発表しました。

「Buy Direct」は、For Youフィード(アルゴリズムが選ぶメインの動画フィード)からワンクリックでブランドの商品を買えるアプリ内チェックアウトです。「Shopping Assistant」は、文脈を理解し利用者の要望を覚える会話型AIエージェントで、商品の詳細、配送、サイズ、在庫について答えます。

TikTokはこの2つを、これから展開する複数のエージェンティックコマース体験の第一弾と位置づけています。構築にはSalesforce、Shopify、Shoplazza、Stripeなどのコマース基盤・決済事業者が加わっています。Adweekによると、両機能は発表当日から米国の利用者とブランドに向けて順次提供が始まりました。

もっとも、誰でもすぐ使えるわけではありません。TikTokの広告主向けブログは、これらのエージェント型ソリューションが資格ベースのテスト機会として提供されており、関心のある広告主は担当の営業パートナーに問い合わせるよう案内しています。

TikTok Shopを通さない購入経路はどう成り立つのか

今回の発表で最も重いのは、Buy DirectがTikTok Shopとは別の仕組みだという点です。

2023年9月に米国で始まったTikTok Shopは、TikTokが運営するマーケットプレイスです。TechCrunchの記事(Yahoo Tech転載)によると、調査会社eMarketerはTikTok Shopの2025年の米国売上を約158億ドル、米国ソーシャルコマース全体の約18%と推計しています。TikTokで売るにはTikTok Shopへの出店が基本でしたが、同記事は今回の機能を、買い物の導線をFor Youフィードを含むアプリ全体へ広げる動きだと指摘しています。

Buy Directでは、注文を処理するのはブランド側のシステムです。広告主向けブログによれば、Buy Directには保存済みの支払い方法と住所を使うワンクリック購入、待ち時間の少ない読み込み、アプリ内での注文追跡が含まれます。そのうえでブランドは取引の販売者(Merchant of Record)のままです。Merchant of Recordとは、法的な売り手として決済、返品、顧客対応に責任を持つ事業者を指します。

これを技術的に支えるのが、Googleが主導するオープン標準のUCP(Universal Commerce Protocol)です。TikTokはBuy Directの利用にUCPとの連携が必要だと明記し、UCPを「AIエージェントと事業者のシステムが連携するための標準化されたルール」と説明しています。UCPの技術評議会にはSalesforce、Stripe、Metaなど10社が名を連ねており、TikTokはその標準を使う側に回りました。

Salesforceの発表は、事業者側から見た意味をはっきり書いています。取引がTikTok上で起きても、事業者は購入者の連絡先や購入履歴を取得し、問い合わせ対応や返品を自社で管理し、メールで再購入につなげられるといいます。TikTok内で売れても、顧客はブランドの顧客として残るという設計です。

3つの売り方を並べると、違いは次のとおりです。

項目TikTok ShopBuy Direct外部サイトへ送る広告
販売の形TikTokが運営するマーケットプレイスに出店ブランドが販売者(Merchant of Record)のままアプリ内で販売ブランドの自社ECへ誘導
購入が完了する場所TikTokアプリ内TikTokアプリ内(注文はブランド側のシステムがUCP経由で処理)ブランドのECサイト
事業者側の準備出店と商品登録UCPへの対応(Salesforce、Shopify、Shoplazza、Stripeなどのパートナー経由)広告とリンク先の用意
手数料販売手数料あり(英国は注文ごとに9%)未開示広告費
提供状況提供中米国で資格ベースのテスト段階提供中

ブランドから見れば、TikTok Shopへの出店とは別に、自社のチェックアウトをそのままTikTokの中に差し込む選択肢ができたことになります。Salesforceは、TikTok向けのカタログ、在庫、注文が他のシステムと別々に管理されると、数字の手作業での突き合わせや、欠品・価格の不一致が起きやすいと指摘しています。自社ECの在庫と注文をそのまま使えるBuy Directは、すでにShopifyやSalesforce Commerce Cloudで自社ECを運営し、顧客データを自社で持ちたいブランドほど利点が大きい仕組みです。

Shopping Assistantは商品情報をどこから得ているのか

TikTokの広告主向けブログは、ハイキング用ブーツの広告を見た人が素材やサイズ感、色の展開を知りたい場面を例に挙げています。Shopping Assistantは、TikTokのアプリ内ブラウザで開いた商品ページにチャット画面を出し、事業者が提供した情報をもとに答えます。利用者はそのまま事業者のサイトでチェックアウトへ進めます。

英The Media Leaderの取材は、現時点の範囲をさらに細かく伝えています。アシスタントが参照するのは商品詳細ページの情報で、商品レビューや基本情報が含まれます。代わりの商品を探したり、漠然とした質問にお勧めを返したりする機能は今のところなく、利用者の代わりに購入を完了することもできません。TikTok英国のグローバルビジネスソリューション担当ゼネラルマネージャーKris Boger氏は、現在の製品群にエージェントによる購入は含まれず、人間が主導権を持つと説明しました。

ニュースルームの発表は購入までを1つの会話で案内すると表現しており、発表文が描く姿と現在の提供範囲には差があります。

Salesforceも、Shopping Assistant向けにカタログを送る一元的な窓口を用意するとしています。つまり、AIの回答品質は事業者が渡す商品データの質にほぼそのまま左右されます。サイズ表、素材、配送日数、在庫が正確に載っていなければ、アシスタントは答えられないか、不正確に答えることになります。

実装はパートナー経由、Salesforceは2027年第1四半期から

ブランドがBuy Directを使う現実的な道は、TikTokが挙げたSalesforce、Shopify、Shoplazza、StripeなどUCPに対応したパートナーを経由することです。

具体的な時期を示したのは今のところSalesforceだけです。同社によると、UCPを使った新しい体験の段階的な提供は2027年第1四半期に始まる見込みで、Commerce Connect経由のTikTok Shop連携は2027年1月に一般提供される予定です。UCPのチェックアウトは決済事業者や注文管理システムを問わない設計だといいます。

Shopify、Shoplazza、Stripeがどの機能を、どの条件で提供するかは、今回確認できたソースでは未開示です。Shopifyは9月に、MetaのAIエージェント「Muse」向けにShop Payによるエージェント型チェックアウトを提供すると発表しており、同様の形でTikTokにも対応するのかが次の焦点です。

広告商品としてのBuy Direct

見落としやすいのは、今回の発表がTikTokの広告主向けアップデートの一部だという点です。同じ発表では、リード獲得用のAIエージェント「Agentic Leads」や、世界約40万のアプリに配信するTikTok Ad Networkの米国提供も明らかにされました。

Salesforceは連携先を「TikTokのBuy Direct広告」と呼び、購入ボタンを埋め込んだ広告で配信し、コンバージョンデータをCommerce Cloudに戻して広告費の最適化に使えると説明しています。Buy Directは、当面は広告と組み合わせて使う購入導線として設計されていると読めます。

開示されていないことと、慎重に見るべき点

条件面の情報は多くが空白です。Buy Directの手数料や料金体系は未開示で、TikTok Shopの販売手数料と比べられません。対象事業者の資格条件や、Shopping Assistantが組み込まれる接点の全体像も明らかになっていません。The Media Leaderは、アプリ内チェックアウトは当面米国のみで、数か月以内に世界展開を予定していると伝えていますが、日本を含む具体的な国名は示されていません。

TikTok自身の動機にも目を向ける必要があります。The Media Leaderは、TikTokが英国のTikTok Shopで注文ごとに9%の手数料を取っていることに触れ、同社には利用者がアプリの外で購入を終えるより、アプリ内で完結させる強い動機があると指摘しました。Buy Directでブランドが販売者の地位を保てても、購入の入口と体験の主導権はTikTokの側に寄っていきます。TechCrunchも、TikTokがChatGPTのような外部のAIツールに利用者が流れるのを防ぎたい意図を読み取っています。

将来についても確約はありません。Boger氏は、人間が主導権を持つ今の形を保つのかと問われ、製品の方向性は保証しないと答えています。

事業環境の変化もあります。Marketing Diveが伝えるように、TikTokの米国事業は今年から米国の合弁会社のもとで運営されています。同記事は、競合MetaのAIエージェントMuseが利用を伸ばす一方でプライバシーへの懸念を招いているとも指摘しています。利用者の要望を記憶するAIを顧客接点に置くことは、ブランドにも説明責任を伴います。

さらに、アプリ内で決済まで完結させる試みは、先行例で順調だったとは言えません。OpenAIはChatGPT内で購入を完了させるInstant Checkoutを2026年3月に終了し、Walmartはそのコンバージョン率が自社サイトの約3分の1だったと明かしています。購買の場としてすでに使われているTikTokは条件が異なりますが、ワンクリック購入が転換率を押し上げるかはテストの結果を待つ必要があります。

EC事業者が今のうちに確認しておくこと

米国で自社ECを運営している、あるいは日本から米国へ販売しているブランドには、今のうちにできることがあります。利用中のコマース基盤や決済事業者がUCPに対応しているか、TikTokとの連携をどう提供するかを確認すること。そして、サイズ、素材、配送日数、在庫といったShopping Assistantが答える項目を、商品ページとフィードで欠けなく整えることです。

TikTok Shopに出店済みの事業者は、手数料やアフィリエイト費用を含めた現在の採算と、Buy Directの条件が開示されたときの採算を比べる準備をしておくとよいでしょう。顧客データを自社で持てる価値も、その比較に含まれます。

まとめ

TikTokのBuy DirectとShopping Assistantは、TikTokで商品を売る方法を「TikTok Shopに出店する」一択から広げる発表です。ブランドは販売者の立場と顧客データを保ったまま、UCPを通じて自社のチェックアウトをTikTokの中に置けるようになります。

ただし現時点はテスト段階で、手数料も対象条件も未開示です。Salesforceが示した2027年第1四半期という時期、ShopifyやStripeの対応内容、そしてShopping Assistantが商品ページの外へどこまで広がるのか。TikTokが「第一弾」と呼んだ以上、次に何が続くのかが、ソーシャルコマースとエージェンティックコマースの境目を決めていきます。