小売・事例2026年8月17日

豪Metcash、CoveoのエージェンティックAI検索でB2B ECのCVRが13%から20%近くへ、クリックランクは25から4以下に改善

豪州の卸売大手MetcashがCoveoのAI検索・パーソナライズをB2BマーケットプレイスSortedに展開し、CVRは約13%から20%近くへ改善。数字の中身とSAP連携の構図、EC事業者が学べる商品データ整備の要点を解説します。

この記事のポイント

  1. 豪州の卸売大手Metcashが、CoveoのエージェンティックAI検索・パーソナライズ技術をB2B ECマーケットプレイス「Sorted」に展開しています。2026年3月に導入したフードサービス・コンビニ事業では、CVRが約13%から20%近くへ改善しました
  2. 目的の商品にたどり着くまでに確認する商品数を示すクリックランクは20〜25から4以下の水準へ短縮され、ロングテール商品の購買、平均注文額、顧客満足度もそろって改善しています。B2B検索AIの投資対効果を具体的な数字で示した数少ない公開事例です
  3. 効果の土台は商品データの品質です。MetcashはGS1経由の正確な商品情報と商品画像の整備をサプライヤーに求めており、画像があるだけで商品単位のCVRが最大40%変わると指摘します。AI検索やエージェント経由の購買に備えるEC事業者が最初に着手すべきは、同じ構造化データの整備です

豪卸売大手Metcash、B2BマーケットプレイスにAI検索を展開

豪州の小売業界誌RetailBizは2026年8月、卸売大手MetcashがB2B EC事業全体でAIの活用を拡大していると報じました。同社のB2Bデジタルエンゲージメント担当ゼネラルマネージャーを務めるSimon Williams氏が、シドニーで開催されたSAP NOW AI Tourの会場でインタビューに応じたものです。

Metcashはスーパーマーケット(フードサービス・コンビニを含む)、酒類、ハードウェアの3部門で、IGAやFoodland、Mitre 10といった看板を掲げる数千の独立系小売事業者を支える豪州最大級の卸売企業です。同社が運営するB2BマーケットプレイスのSortedはSAP Commerce Cloud上に構築された二面型のプラットフォームで、約3,500のサプライヤーが接続し、週あたり約48,000件の取引を処理しています。顧客の75%以上が検索機能を使って新商品を見つけているとされ、検索体験の質がそのまま取引量を左右する構造です。

その検索体験の中核を担うのが、AI検索・パーソナライズを手がけるカナダのCoveoです。Metcashは2026年3月19日にCoveoのAI-Relevanceプラットフォームの採用を公式発表しており、今回のインタビューは導入から数カ月を経た成果報告という位置づけになります。

CVR13%から20%近くへ、数字が示す改善の中身

導入効果が最も鮮明に表れているのは、2026年3月に稼働したフードサービス・コンビニ事業です。Williams氏によると、導入前はプラットフォームに来訪した顧客100人のうち購買に至るのは13人程度でしたが、現在は20人近くまで引き上がっています。CVRに換算すれば約13%から20%近くへの改善です。開発着手が同年2月ですから、わずか半年足らずでこの変化が起きたことになります。

検索品質の指標として同社が使うクリックランク、つまり目的の商品にたどり着くまでに確認する商品数の変化はさらに劇的です。旧来の検索では20〜25の範囲にあり、顧客は最大25個の商品を見比べてようやく欲しい商品を見つけていました。現在は「4を超えたら重大な問題があると考える」水準を基準に運用されています。

時間に追われる事業主にとって、1日は顧客対応と在庫補充と発注の間でやりくりされています。その数秒、数分が本当に重要なのです。

改善を支えているのは、キーワードの一致に頼らないセマンティック検索と、AI関連性モデルによる意図の解釈です。SortedはログインしたB2B顧客だけが使うプラットフォームであるため、顧客の業態や過去の購買履歴といったデータを把握できており、「その事業を営むうえで何が必要か」という文脈で検索結果を並べ替えられます。匿名訪問者が大半を占める消費者向けECより、パーソナライズの材料が最初から豊富にある構造です。

効果は検索の速さだけにとどまりません。Williams氏が挙げるのはカタログのロングテールへの購買の広がりです。従来の顧客はトップページに並ぶポテトチップスやコーラ、チョコレートといった売れ筋だけを買って帰る傾向がありましたが、検索精度の向上でカタログの深部まで到達するようになりました。コーヒーカップを探す顧客に、対応するフタや容器を提示する関連商品レコメンドも寄与し、平均注文額と購買頻度が伸びています。顧客満足度スコアも月を追うごとに上昇していると同氏は述べています。

指標導入前導入後出典
CVR(フードサービス・コンビニ事業、来訪100人あたりの購買者数)約13%20%近く[出典](https://www.retailbiz.com.au/technology/metcash-scales-ai-across-b2b-e-commerce-platform/)
クリックランク(目的の商品までに確認する商品数)20〜254以下を基準に運用[出典](https://www.retailbiz.com.au/technology/metcash-scales-ai-across-b2b-e-commerce-platform/)
検索機能で新商品を発見する顧客の割合(Sorted全体)75%超(導入発表時点)継続利用中[出典](https://www.itnews.com.au/news/metcash-brings-ai-search-to-its-b2b-marketplace-624422)
商品画像の有無による商品単位のCVR差(Metcash社内知見)画像なし画像ありで最大40%改善[出典](https://www.retailbiz.com.au/technology/metcash-scales-ai-across-b2b-e-commerce-platform/)

ただし、これらの数値はいずれもMetcash側の自己申告であり、対照群を置いた検証手法や計測条件は公開されていません。CVRの定義も、発注目的で来訪する業務顧客を母数とするB2B文脈の数字です。衝動的な回遊が多い消費者向けECのCVRとは母数の性質が異なるため、水準の単純比較はできない点に注意が必要です。

CoveoのAI-RelevanceとSAP連携という構図

3月の公式発表によると、MetcashはCoveoのAI-RelevanceプラットフォームをSAP Commerce Cloud環境に統合しました。CoveoはSAPと提携関係にあり、SAP系のコマース基盤に検索・パーソナライズのAIレイヤーを載せる構図です。既存のEC基盤を入れ替えずに検索と発見の体験だけを差し替えるアプローチは、基幹システムの刷新に慎重な大企業にとって現実的な選択肢になっています。

Coveo自身も2026年に入り、エージェンティックAIへの布石を相次いで打っています。2月にはChatGPT EnterpriseやClaudeなどのLLMから自社の統合インデックスへ直接接続できるHosted MCP Serverを発表し、3月には検索窓に会話型AIを組み込むConversational Product Discoveryを発表しました。後者は複数のAI機能をオーケストレーションして買い物客の意図を解釈する、エージェンティックアーキテクチャを土台にしています。6月にはGartnerの検索・商品発見部門のMagic Quadrantでリーダーに位置づけられ、2026年度決算では新規受注の約6割をコマース領域が占めたと報告しています。

Metcashの展開手順にも学ぶ点があります。最初はハードウェア事業に2025年のクリスマス前に導入し、フードサービス・コンビニ事業は2026年2月に開発を始めて翌月に投入、酒類事業には2026年末までに広げる計画です。部門ごとに成果を確認しながら横展開する段階導入は、数千の事業者が日常業務で使う基盤にAIを組み込む際の、リスクを抑えた進め方を示しています。

商品データの整備が投資対効果を決める

インタビューの後半でWilliams氏が強調したのは、AIそのものではなく商品データの品質でした。サプライヤーやベンダーに対し、GS1などの標準化プラットフォームを通じた正確な商品情報の提供を求めています。特に中小サプライヤーの商品画像は課題として名指しされており、画像を用意するだけで商品単位のCVRを最大40%改善できると同氏は述べています。この40%という数字は同社の知見に基づく主張であり外部検証はされていませんが、商品情報の基礎整備が検索AIの効果を左右するという指摘そのものは、AI検索対応を検討するあらゆるEC事業者に当てはまります。

同じ構図は日本のEC事業者にも重なります。ChatGPTのショッピング機能やAIエージェント経由の購買では、構造化された商品データと画像がAIに「読まれる」ための前提条件になります。高度なAI機能への投資の前に、商品マスターの正確性、画像の充足、標準コードによる連携という基礎を固める順序は、B2BでもB2Cでも変わりません。検索AIは商品データを増幅する装置であり、元のデータが薄ければ増幅されるものもないという当たり前の事実を、Metcashの事例は数字付きで裏づけています。

なお、MetcashとCoveoの契約金額や導入費用、具体的な契約条件は未開示です。

まとめ

MetcashのAI展開は、2026年末に予定される酒類事業への導入で3部門への展開が完了します。フードサービス・コンビニで出たCVRとクリックランクの改善が、商材の異なる酒類でも再現されるかが次の確認ポイントです。Coveo側では会話型検索やMCP経由のエージェント接続といった新機能が控えており、これらが載れば、Sortedは検索するマーケットプレイスから発注業務をAIが肩代わりする調達チャネルへ近づきます。エージェンティックコマースの実利は、消費者向けの華やかな事例より一足先に、時間に追われる事業者のB2B調達で静かに積み上がりつつあります。