Salesforce、B2B購買エージェントをWhatsApp/SMSで稼働、新B2B Commerceスイートを解説

SalesforceがAgentforce上の24時間稼働Buyer AgentをWhatsAppやSMSで動かす新B2B Commerceスイートを発表。会話型の自己解決購買とintent駆動検索の仕組み、EC事業者への示唆を解説します。

この記事のポイント

  1. SalesforceがAgentforce上で24時間稼働する「Buyer Agent」を発表、WhatsAppやSMSからB2B購買を完結できる
  2. intent駆動のAI検索、見積もりからカートへの変換、ヘッドレス基盤を1つのB2B Commerceスイートに統合した
  3. B2Bバイヤーの自己解決と非同期チャネルでの購買を前提に、EC事業者は営業を介さない購買動線の設計が問われる

Salesforce、B2B購買エージェントをWhatsAppとSMSで稼働

Salesforceが、B2B購買の現場に会話型のAIエージェントを組み込む新しいB2B Commerceスイートを打ち出しました。Salesforce公式ブログによると、一連の機能は2026年6月にGA(一般提供)となり、専門メディアでは7月下旬に広く報じられています。中心にあるのが、Agentforceプラットフォーム上にネイティブ実装されたBuyer Agent(購買エージェント)です。

Buyer Agentは、24時間稼働する購買アシスタントとして動きます。特徴は、専用ポータルにバイヤーを呼び込むのではなく、バイヤーが普段使っているチャネルに出向くという設計思想です。具体的にはWhatsAppやSMSといったメッセージングアプリ上で、商品検索、注文管理、購入完了までを自然な会話だけで処理します。営業担当への電話は不要です。

MarketScaleの記事が挙げる例がわかりやすいところです。バイヤーが「3月の注文と同じ16オンスの留め具を40ケース欲しい」とテキストを送ると、エージェントは対象SKUを確認するための商品画像を返し、契約価格を提示し、注文まで仕上げます。テキストのリンク一覧ではなく画像付きで提案する点が、消費者向けアプリで磨かれた体験に近づけようとする狙いです。

なぜ会話型チャネルなのか、B2Bバイヤーの「10チャネル」問題

この発表の背景を理解する鍵は、B2B購買の分断にあります。McKinsey & Companyの調査によれば、B2Bバイヤーは1回の購買で平均10チャネルを行き来しています。デジタルの店頭、営業担当、ERPなどのバックエンド、メッセージングアプリ。これらが分断されていると、引き継ぎのたびに文脈が失われ、商談が止まり、バイヤーの信頼も削られます。

見過ごされがちなのは、この非効率が乗っている市場の大きさです。B2B ECの市場規模は消費者向け(B2C)を大きく上回ります。複数の市場調査では、世界のB2B EC市場は2025年時点で数十兆ドル規模とされ、B2Cのおよそ4倍から5倍という試算が並びます。取引単価が高く、リピート発注が多いB2Bで購買の摩擦を減らすことは、そのまま売上の防衛につながります。

もう1つの潮流が、B2Bバイヤーの世代交代です。日常でChatGPTのような対話型AIや洗練されたモバイルアプリに慣れた層が、仕事の発注でも同じ手触りを求め始めています。営業に電話して見積もりを待つより、チャットで自己解決したいという非同期・自己完結型の期待に、従来のポータル中心のB2Bサイトは追いついていませんでした。Salesforceが会話型チャネルを起点に据えたのは、この期待値のずれを埋めるためです。

Buyer Agentが埋める購買ジャーニーの空白

スイートの価値は、Buyer Agent単体ではなく、購買の前後にある摩擦をまとめて潰しにいく点にあります。最も実務に効くのが検索の刷新です。AI-Driven and Attribute-Based B2B Searchは、正確な商品名やSKUを知らなくても、用途や動作環境の説明から意図をくみ取って結果を返します。Salesforceが挙げるのは「大型の洋上風力タービン向け、高荷重、塩水環境に耐えるベアリングの交換品が欲しい」という自然文で、型番なしに適切な候補が出るという例です。

型番を知らないと検索できない、あるいは一般語で検索すると数百件が返るか0件になる。この「no results found」の袋小路こそ、B2B検索の慢性的な痛点でした。マーチャンダイジング担当は属性単位でランキングや表示を調整でき、空振りを関連候補の提案に変えることで平均注文額の底上げを狙えます。

見積もりの領域では、Round Trip Quoting(往復見積もり)という流れが用意されました。見積依頼(Request for Quote)は既にGA済みで、今回の新機能がQuote to Cartです。交渉して承認された見積もりを、そのままチェックアウト可能なカートに変換し、売り手がリンクを共有します。価格や文脈を保ったままカート化するので、見積もり確定後に付きものだった手入力のやり直しが省けます。このほか、ブランド専用のモバイルアプリをApp StoreやGoogle Playへゼロから作らずに配信できるMobile Publisher、React・Vueなどでフロントを組みつつ裏側のデータ層をAgentforceに統一するHeadless360リファレンスアーキテクチャも同時に公開されました。

楽観論への留保、導入率と課金モデルという現実

もっとも、機能の充実とバイヤーの実利用は別の話です。Agentforce全体を見ると、導入は発表の勢いほど進んでいません。証券会社KeyBancの調査を引いたCIOの報道は、顧客の定着が弱く、多くの導入が概念実証(PoC)の段階にとどまると指摘しました。Salesforce顧客のうちAgentforceを採用しているのは一部にとどまるという見立てもあります。

障壁として繰り返し挙がるのが、消費量ベースの課金モデルデータの整備状況です。席数ベースのライセンスと違い、消費量課金は予算化が難しく、短期間に料金体系が変わったことも購買部門の慎重姿勢につながっています。加えて、AIエージェントは構造化された連携済みのデータがあって初めて正しく判断できます。CRMの記録が分断された企業では、使い始める前のデータ準備に相当な時間を要したという声もあります。今回のB2B Commerce機能群についても、Buyer AgentのWhatsApp/SMS経由の利用量や、各機能の価格は未開示で、実際のROIを測る材料はこれからです。推進側の描く理想像と、現場の導入コストの間には、まだ距離があります。

EC事業者への示唆

この発表が突きつけるのは、購買の入口がWebサイトやアプリからAIエージェントや会話へと広がるという現実です。自社が管理しないチャネル(メッセージングアプリや第三者のマーケットプレイス)でも、価格・在庫・注文の文脈が途切れないようにデータを一元化しておくことが前提になります。まず着手すべきは、型番を知らないバイヤーでも意図から探せる検索と、営業を介さずに見積もりから決済まで進める非同期の動線の2点です。会話型の購買を「消費者向けの流行」と切り離すのではなく、単価の高いB2Bだからこそ効く売上防衛策として捉え直す視点が求められます。

まとめ

Buyer Agentは、B2B購買を「ポータルに来てもらう」発想から「バイヤーがいる場所に出向く」発想へと反転させる試みです。ただし真価が問われるのは機能一覧ではなく、WhatsAppやSMSでどれだけの取引が実際に完結するかという定着の数字です。次に注目すべきは、Salesforceが未開示とした利用量と、消費量課金のもとでEC事業者が投資対効果をどう説明していくかにあります。