Naver、AIショッピングエージェント内決済を年内に試験導入へ、取引額4倍・家電4割が示す「会話で買い切る」設計
NaverがAIショッピングエージェント内の決済を一部カテゴリで年内に試験導入します。MAU5倍・取引額4倍の内訳、家電が4割を占める理由、未開示の条件と、エージェンティックコマースに備えるEC事業者・モール出店者への示唆を解説します。
この記事のポイント
- Naverは年内に、一部の商品カテゴリでAIショッピングエージェント内の決済機能を試験導入する計画です。これまでは推薦された商品をタップするとスマートストアの商品ページへ移り、そこで注文・決済する必要がありました。試験導入の対象カテゴリや開始日は未開示です
- エージェントの8月の月間アクティブユーザーと1日平均会話数は3月比で約5倍、エージェント経由の1日平均取引額は約4倍に伸びました。取引額の40%をデジタル機器・家電が占め、78%はNaver Plus Membershipの会員によるものです
- 仕様比較や設置可否の判断が必要な高関与商品で会話型の買い物が先に定着しています。寸法や設置条件、配送日、会員特典といった判断材料を機械が読める形で持っているかどうかが、エージェント経由で売れる商品と売れない商品を分ける条件になりつつあります
推薦から決済へ、Naverが埋めようとしている最後の段差

NaverのAIは欲しいものを探し出せる。次は、それを買うところまで手伝う段階へ。ソウル、9月28日(Korea Bizwire)人工知能に尋ねると…
koreabizwire.comAIに相談して商品を選んだら、その会話の中で購入まで終わらせる。聯合ニュースの報道(Financial News掲載)によると、Naverは年内に一部の商品カテゴリを対象として、AIショッピングエージェント内での決済機能を試験導入する計画です。ICT業界関係者の話として伝えられたもので、英字メディアのKorea Bizwireも9月28日に同じ内容を報じました。
マネートゥデイの報道によれば、エージェントの中ではまだ決済できません。推薦された商品をタップするとNaverスマートストアの商品ページへ遷移し、そこで改めて注文と決済を行う仕組みです。試験導入が始まると、対象カテゴリでは探索、推薦、決済までがエージェントの画面の中で完結します。
2026年6月末の正式版移行の時点で、Naverは下半期の目標を「検索から決済までのエージェンティックショッピング」と掲げており、今回の計画はその具体化です。ただし、どのカテゴリから試すのか、いつ始まるのか、決済手段としてNaver Payがどう組み込まれるのかは、いずれも公表されていません。
競合も動いています。ポータルサイトDaumを運営するUpstageは、検索・比較から購入までをつなぐコマースエージェントのベータ版を来年初めに公開する予定です。マネートゥデイは、来年の旧正月商戦には韓国の二大ポータルでAIが買い物を代行する導線がそろうと見込んでいます。
3月比5倍・4倍の中身を読む
利用指標は、発表のたびに比較の基準が変わっています。6月と9月の数字はNaverの発表、8月の数字は聯合ニュースの報道によるものです。
| 時点(比較基準) | 指標 | 変化 |
|---|---|---|
| 2026年6月(対3月) | 日間ユーザー数 | 50%以上増 |
| 2026年6月(対3月) | 取引額 | 2.7倍以上 |
| 2026年9月17日まで(対6月) | 1日平均の会話セッション数 | 約60%増 |
| 2026年9月17日まで(対6月) | 取引額 | 82%増 |
| 2026年8月(対3月) | 月間アクティブユーザー、1日平均会話数 | それぞれ約5倍 |
| 2026年8月(対3月) | 1日平均取引額 | 約4倍 |
日間ユーザーと月間ユーザー、取引額と1日平均取引額が混在しているため、数字をつなげて成長率を計算することはできません。それでも、9月17日の機能追加の発表が示すとおり、6月の正式版以降も会話数と取引額が伸び続けている方向ははっきりしています。
見落とせないのは、取引額の78%がNaver Plus Membershipの会員によるものだという点です。有料会員は割引や無料の交換・返品といった特典を持ち、Naverの中で繰り返し買い物をする層です。エージェントの成長は新規顧客の獲得より、ロイヤル顧客の購買行動を会話型へ置き換える形で進んでいると読めます。
なぜ家電が取引額の4割を占めるのか
エージェント経由の取引額で最大のカテゴリはデジタル機器・家電で、全体の40%を占めました。聯合ニュースは、商品ごとの仕様や機能、設置・配置が可能かどうかを比べる必要がある高関与カテゴリで、AIの比較・要約機能の活用度が高いと分析しています。
洗濯機を買う場面を考えると、容量、乾燥機能の有無、消費電力に加えて、設置場所の幅や奥行き、搬入経路の広さ、給排水の位置まで確認が必要です。従来の検索では、利用者が複数の商品ページを開き、スペック表を行き来して自分で照合していました。この照合作業こそ、大量の商品情報を読んで要約するAIが最も得意とする仕事です。
逆にいえば、家電がエージェントで売れているのは、比較のための情報が商品ページにそろっているからでもあります。仕様表の項目が欠けていたり、設置条件が画像の中にしか書かれていなかったりする商品は、AIが条件照合の対象にできません。Naverは最近、商品詳細ページにAI要約モジュールを入れ、第4四半期には利用者が気にしそうな疑問をFAQ形式で先回りして示す機能も加える予定です。いずれも同じ照合作業を商品ページ側で支えるものです。
決済の試験導入がどのカテゴリから始まるかは未開示です。ただ、仕様が明確で比較の結論が出やすい商品ほど会話型の購買が先に進むことは、家電の取引構成比が示しています。
決済の手前で積み上げてきた部品
決済機能は単独で追加されるわけではありません。Naverはこの数か月、「何を、いつ、どの条件で買うか」まで判断できるよう、決済直前の部品を足してきました。
中心にあるのが配送です。9月17日のアップデートで、利用者の住所をもとに希望日までに届く商品を提案する機能が入りました。「キャンプに行くので明日までに届く鍋のミールキットを」と頼むと、期限内に届く商品を示し、「今夜10時までの注文で明日の早朝に届きます」と締め切り時刻まで案内します。急ぎの文脈では、利用者が明示しなくても早く届く商品を中心に推薦します。
ギフト推薦では、受け取る人の年齢や好み、記念日などの状況とギフト関連のレビューを反映し、推薦理由まで説明します。最初の画面にはトレンドを紹介する会話の入口も加わり、検索語を思いつく前から相談を始められます。
会員特典の組み込みも進んでいます。会員割引や無料の交換・返品を推薦商品とあわせて案内し、利用者にとってより有利な特典が付いた商品を優先して推薦するよう改善されました。年内にはエージェントをPC版にも広げ、実際の利用者レビュー(UGC)を使って推薦の根拠と信頼性を高める計画です。ショッピング検索・AI責任者のイ・ジョンテ氏は、9月の発表で次のように述べています。
商品スペックとリアルタイムの配送情報、レビューデータなどのショッピングデータを個人化推薦の技術と組み合わせ、差別化されたAIコマース体験を育てていく。
閉じた生態系だから踏み出せる決済
米国では、OpenAIがChatGPT内で決済できる「Instant Checkout」を2025年9月に公開しました。ところがForresterのウェビナーを伝えたシサジャーナルeの記事によると、約5か月後には自前の決済機能を縮小し、販売者のアプリやサイトで決済する方式へ切り替えています。チャット内決済は先行企業でも形が定まっていません。
Naverの条件はこれと大きく異なります。崔秀姸(チェ・スヨン)CEOは第2四半期の決算説明会で、Naverを「検索、ショッピング、プレイス、決済をつなぐ韓国で唯一のフルファネルのプラットフォーム」と表現しました。商品データはスマートストア、決済はNaver Pay、特典は会員プログラム、配送はN配送と、エージェントが判断に使う材料と取引の執行手段がすべて自社の中にあります。Naver Payの第2四半期の決済額は前年同期比21.0%増の25.2兆ウォンに達しています。
イーデイリーの報道によれば、NaverとCoupangは外部のAIエージェントに対して自社プラットフォームを開放せず、自前の生態系でAI活用を深める方針をとっています。Naverショッピングの関係者は同記事で、探索から決済までをNaverの生態系の中で終わらせる戦略だと説明しています。段階的な開放を検討するGマーケットとは対照的です。
収益の設計も一部だけ見えています。マネートゥデイによると、Naverは現在ショッピングエージェント内に広告商品を表示しておらず、エージェント経由で売れた商品には通常のスマートストア販売手数料が適用され、追加の手数料はありません。ただしこれは現行の導線についての説明で、エージェント内決済で手数料体系が変わるかどうかは未開示です。
決済を任せる信頼はまだ育っていない
推進側の数字だけでは、この計画の難しさは見えません。前出のシサジャーナルeの記事によれば、Forresterの調査では、回答型AIの利用者の約60%が商品を検索した一方、そのサービス内で決済まで終えた割合は17%未満でした。約85%がAIを有用だと評価しながら、回答を完全に信頼する割合とは71ポイントの差がありました。推薦を頼むことと決済を任せることは別の問題です。
責任の所在も未整理です。同じ調査では、AIエージェント経由の取引で問題が起きた場合、消費者の約45%が商品を売った企業より回答型AIのサービスに責任を問うと答えています。ヘラルド経済がロイターを引いて報じたところでは、Bank of America、Capital One、INGといった金融機関も、AIによる誤購入や詐欺取引の責任が消費者、金融機関、販売者、AI企業のどこにあるのか不明確だと警告しています。
出店者側の論点もあります。イーデイリーの記事が指摘するように、会話の中で購入が完結するほど利用者はストアのページを経由しなくなり、顧客との接点やデータ、追加購入の機会をプラットフォーム側に委ねる度合いが強まります。Naverのエージェント内決済で、決済前の最終確認をどう求めるのか、誤購入時の返品や責任を誰が負うのか、出店者のストアページや関連商品がどこまで表示されるのかは、いずれも公表されていません。
日本のEC事業者とモール出店者への示唆
Naverの事例で最も参考になるのは、会話型の購買が「どの商品で先に成立するか」を示した点です。家電が取引額の4割を占めたという事実は、判断材料が多い商品ほどAIに比較を任せる価値が高いことを意味します。日本の家電、家具、PC周辺機器、ベビー用品などを扱う事業者にとって、寸法、設置条件、対応規格、同梱物といった比較の軸を、画像ではなくテキストの構造化データで持つことは、エージェント時代の前提条件になります。
配送の約束も推薦の材料になりました。「明日までに届く」が推薦の条件になる以上、在庫数と配送リードタイム、注文締め切り時刻が正確にシステムから読めない商品は、急ぎの文脈で候補から外れます。これは広告や販促とは別の、オペレーションデータの品質の問題です。
モールに出店する事業者は、Naverの出店者と同じ立場に置かれる可能性があります。Naverの設計では、推薦の優先度に会員特典や配送条件が反映され、根拠にはレビューが使われます。会話の中で決済まで終われば、ストアページで世界観を伝える機会も減ります。モール経由の売上を伸ばしつつ、会員化やアフターサービスなど自社で顧客との関係を保てる接点を別に持っておくことが欠かせません。
まとめ
Naverのエージェント内決済は、年内の試験導入という段階にとどまり、対象カテゴリ、開始時期、決済手段、手数料、責任分担はまだ見えていません。それでも、推薦から決済までの最後の段差を自社の生態系で埋めにいく判断は、商品データから決済までを自前で持つプラットフォームならではのものです。今後は、試験導入のカテゴリがどこになるのか、そして来年初めに控えるDaumのコマースエージェントがどのような決済の設計を選ぶのかが注目点になります。EC事業者にとっての準備は、AIが迷わず比較し、約束どおり届けられる商品データを今のうちに整えておくことです。


