食料品AIアシスタントNeomiの共同創業者が語る「人起点」のカート設計:AIが販促商品を入れてよい一線はどこか

食料品AIアシスタントNeomiの共同創業者が語った、健康目標や場面からカートを組む設計を、VARUSでの試験とMcKinsey調査から検証。AIが販促商品をカートに入れる一線と、食品EC事業者が整えるべき商品データを解説します。

この記事のポイント

  1. 食料品向けAIアシスタント「Neomi」の共同創業者Dmytro Lylyk氏とVladyslav Mehera氏が、商品検索ではなく健康目標・食事制限・場面からカートを組む「人起点」の設計と、意図に合わない販促商品はカートに入れないという線引きを語りました
  2. McKinseyの北米食料品調査では、消費者の47%が高たんぱく・低糖質など特定の機能を重視し、小売側は完全にパーソナライズした販促の比率を35%から55%へ高める見通しです。AIがカートを組むなら、何を入れるかの基準は小売の収益設計と直結します
  3. Neomiが公表する実績はウクライナのVARUSでの1件の試験に限られ、同社も「方向性を示す結果」と位置づけています。食品EC事業者が今から着手できるのは、商品を「どのニーズ・場面・食事制限に合うか」で記述し、販促商品を差し込むルールを明文化することです

「棚のための食品」ではなく「健康のための食品」

スマートフォンで夕食を注文し、前回のカートをそのまま再注文できる時代でも、「何を買うか決める」作業は残っています。The Next Web(TNW)が2026年9月14日に掲載した記事は、食料品ECのこの逆説から始まります。

登場するのは、食料品の買い物AIアシスタントNeomiの共同創業者、Dmytro Lylyk氏とVladyslav Mehera氏です。Lylyk氏は自社の思想を「棚のための食品ではなく、健康のための食品」と表現し、小売やブランドがパッケージや陳列で目立つことに最適化してきた点を問題視しています。

同氏によれば、買い物客はカタログを検索するか過去の注文を繰り返すかの二択に置かれ、どちらも商品起点の仕組みを強めています。Neomiは代わりに、健康情報、食事制限、好み、個人の目標を「カートに何が入るべきかを決めるシグナル」として扱うとしています。起点を商品から人へ移すという主張です。本稿ではこれを公開情報と調査データで検証し、Lylyk氏が「越えてはならない一線」と呼んだ販促商品の扱いを掘り下げます。

Neomiについて公開情報で確認できること

ウクライナのIT媒体dev.uaによる2025年6月の取材によると、Neomiはウクライナ発のスタートアップです。自己資金で開発を始め、2024年秋にUkrainian Startup Fund、2025年春にEUから助成金を得ました。同年6月にスーパーマーケットチェーンVARUSのサイトで試験導入が始まり、これが最初の商用提携とされています。

現在の公式サイトでは、食料品小売向けのホワイトラベル型AIストアフロントとして説明されています。小売の既存ECの横で動き、ライブのカタログ・在庫・価格を読んでカートを組み、決済と顧客データは小売側に残る設計です。

項目確認できた内容出典
創業者Dmytro Lylyk氏(CEO)、Vladyslav Mehera氏(CTO)dev.ua(2025年6月)
資金Ukrainian Startup Fund(2024年秋、pre-seed助成2.5万ドル)と、dev.uaによるとEU(2025年春)の助成金。EU分の金額と外部からの出資は未開示dev.ua(2025年6月)
公開された導入先ウクライナの食料品チェーンVARUS。2026年4月14日に「VARUS AI Helper」として一般公開Neomi事例記事
提供形態小売のブランドで提供するAIストアフロント。要望に応じて自社サイト内のアシスタントとしても導入可能Neomi公式サイト
決済・顧客データ小売側に残るNeomi公式サイト
ChatGPTなど外部AIからの購入MCPサーバーなどを計画中で、現時点では未提供Neomi公式サイト
料金未開示(2025年時点では将来的に成約ごとの手数料を想定と説明)dev.ua、Neomi公式サイト
利用者数・導入小売数未開示(伸び率のみ公表)Neomi事例記事

ロマンチックディナーのカートにワインが入った理由

Lylyk氏が挙げた例は具体的です。ある利用者が「Romantic Dinner for Two(2人のロマンチックディナー)」という体験を選ぶと、依頼していないワインがカートに入っていました。ワインは指名された商品ではなく、場面の文脈から導かれた商品です。

夕食の場面を思い描く人は、料理が必要だとわかっていても、そのための商品をすべて把握しているとは限りません。検索は知っている商品名しか受け付けませんが、場面の記述はまだ思いついていない商品まで引き出せます。人起点の設計の核心はここにあります。

もっとも、利用者は最初からそう使ったわけではありません。Mehera氏によると、利用者は当初Neomiを検索エンジンのように扱い、牛乳を頼んでは次の単品を頼んでいました。そこでNeomiは、1週間に何を食べるか、好みの料理、食事の目標といったニーズをまとめて伝えるよう促していったといいます。同氏はこれを、時間をかけて変わっていく「学習される行動」と見ています。

実際の依頼文は、VARUSでの試験をまとめたNeomiの事例記事に載っています。「予算50ドルで6日分の買い物リスト。調理は最小限、おかゆと牛乳と果物はなし」「サッカー観戦をする男性グループ向け」。どれも商品名ではなく、制約と場面と予算です。

同記事によれば、依頼から完成したカートまでのやり取りは中央値でおよそ4回で、1回の応答で7品以上を加えるケースが大半でした。Neomiは、利用者がAIを検索窓としてではなく「判断を任せる相手」として使ったと総括しています。公式サイトによれば、依頼が曖昧なときはチャット内のフォームで質問を返す機能もあり、利用者側の学習の負担を提供側で軽くする工夫と読めます。

需要側のデータは「人起点」を後押ししている

TNWが根拠に引くMcKinseyのThe State of Grocery North America 2026は、米国とカナダの消費者約5,000人と、食料品小売の経営幹部40人超への調査に基づいています。消費者の47%が「健康的」という一般的な表示より、高たんぱくや低糖質といった特定の機能を重視し、ウェルネスを最もよく支援する小売について「パーソナライズされた栄養の推奨がある」と答えた人は55%近く(脚注では53%)でした。

小売側は、完全にパーソナライズした販促の比率が現在の35%から2〜3年後に55%へ高まると見込んでいます。食料品小売の半数近くは5年以内にAIエージェントが取引の3分の1以上を支援すると予想し、大手ではすでにオンライン注文の20%超が、AIが提案したカートや、あらかじめ組まれたカートから生まれているとしています。

VARUSの数字は、条件とセットで読む

事例記事によると、2026年4月14日の一般公開後、セッションの約88%で商品がカートに入り、約15%が注文確定に至りました。購入に至ったセッションのカート完成時間は中央値で約2.5分で、従来のVARUSのオンラインの買い物は20〜30分かかっていたといいます。

ただし公開時の導線は、Webのみで宣伝もせず、モバイルアプリからは意図的に外し、最初の1か月は対象を絞っていました。Neomi自身、数字は「積極的に隠されていた導線」から得たもので、その条件は良くも悪くも結果に影響すると明記しています。約15%の注文率はサイト全体の訪問者の注文率(約1%)と並べて示されていますが、両者は分母が異なります。

公式サイトもこれらを「1件の公開試験から得た方向性を示す結果」と位置づけています。平均注文単価への効果、継続利用率、代替品の発生率、粗利への影響は、今回確認した範囲では未開示です。他の小売で同じ結果が出るかは、まだ検証されていません。

販促商品は「意図に合うときだけ」、その一線は誰が引くのか

TNWの記事で最も踏み込んだ発言は、リテールメディアに関するものです。Lylyk氏は、AIは販促対象だというだけでカートにも期待にも合わない商品を押し込めると指摘し、それを「越えてはならない一線」と表現しました。販促商品が入るのは利用者の意図に本当に合う場合だけ、という立場です。

興味深いのは、この一線がNeomiの小売向けの売り込みの内側に引かれている点です。公式サイトは、小売の優先商品や週替わりチラシの商品を、判断の瞬間にカートへ直接配置できることを売りにし、FAQではこれを「小売がNeomiの導入費用を回収できる理由」に挙げています。そのうえで、利用者には常に表示され、すぐに外せると説明しています。

つまりNeomiは、販促商品をカートに入れること自体は否定していません。意図に合うこと、見えること、外せること。この条件の範囲で入れる設計です。残る問題は「意図に合う」を誰がどの基準で判定するかで、その判定はいまのところ提供側と導入小売の内側にあります。

業界全体にとっても重い論点です。McKinseyの同レポートでは、食料品小売の経営幹部がリテールメディアは利益全体の3〜10%を占めると答えています。レポートは、商品発見が会話型アシスタントへ移れば、リテールメディアは掲載位置で売る広告から「アルゴリズムの意思決定の中での影響力」へ変わる必要があるとも指摘しています。California Management Reviewに寄稿したPaul F. Accornero氏は、AIエージェントへの買い物の委任をプリンシパル・エージェント問題になぞらえ、エージェントが掲載料を払う提携先を優先しても利用者には検証しにくいと論じました。

外部のAIエージェントでは、広告表示が逆効果になりうることを示す研究もあります。コロンビア・ビジネススクールの研究チームがGPT-4.1、Claude Sonnet 4、Gemini 2.5 Flashに模擬ECサイトで買い物をさせた実験では、「Sponsored」表示の商品は選ばれる率が下がり、「Overall Pick」表示の商品は上がりました。自社アシスタント内での販促の扱いと、外部エージェントからの評価は分けて設計する必要があります。TopsortのSponsored Promptsのように、会話の中に広告枠を設ける試みも並行して進んでいます。

消費者の受け止め方も無視できません。The Shelby ReportがまとめたMcKinseyのウェビナーでは、AIを使う意向は商品検索の補助で51%、利用者の確認なしの完全自動注文では20%でした。McKinseyは、非利用者の関心を高める要因として、機能を簡単にオフにできること、提案を上書きできること、問題時に人のサポートを受けられることを挙げています。販促商品を「常に見えて、すぐ外せる」形にする設計は、主導権を手放したくない消費者心理に沿ったものです。

InstacartやDoorDashも同じ方向へ

場面や献立からカートを組む機能は、大手でも標準になりつつあります。9月9日にInstacartが北米で公開した「Clementine」は、「2人分の高たんぱくで簡単な夕食」のような自然文を数秒でカートに変えるとしており、同社は約10万店舗から届く在庫シグナルを差別化の根拠に挙げました。マーケットプレイスを持つInstacartに対し、Neomiは小売の既存システムに載る「小売が所有するAIストアフロント」を打ち出しています。

DoorDashはレシピ写真からカートを作るAsk DoorDashを6月に投入し、米スーパーのSchnucksはVitalityIPと組んで健康目標に沿った買い物アシスタントの導入を発表しています。Albertsonsは会話型AIで平均注文単価が会話型検索で約10%、総合アシスタントで約26%上がったと公表しましたが、第1四半期決算では粗利率が低下しており、単価の上昇がそのまま利益を意味するわけではありません。

食品EC事業者が今から整えるべきこと

最初に手をつけやすいのは商品データです。Neomiは、小売のカタログに食事制限のデータが欠けていれば独自のタグで補うとしています。食事制限の属性が整っていないカタログを想定した機能と言えます。

「2人のディナー」「サッカー観戦」のような場面や、「高たんぱく」「乳製品不使用」のような属性で商品を引ける状態にしておけば、自社アシスタントでも外部エージェントでも候補に入りやすくなります。PYMNTSの取材に応じたChris Selland氏も、エージェントが商品を選ぶ世界では、構造化された商品データ、配送情報、信頼のシグナル、在庫状況が推薦を左右すると述べています。Walmart Sparkyの推薦を分析した記事でも、引用元の7割超が商品ページの外にありました。

在庫と代替品も欠かせません。提案した商品が買えなければ、場面から組んだカートは崩れます。Neomiも在庫切れの商品を提案前に除外するとし、VARUSでの次の検証項目に在庫に沿った推薦と代替品の改善を挙げています。

健康情報の扱いにも線引きが要ります。NeomiはFAQで、食事制限への対応を「医学的な保証ではなくカタログの絞り込み」だと明記しています。アレルギーや持病に関わる条件でカートを組むなら、商品情報の正確さと、利用者に最終確認を促す導線は小売側の責任として残ります。

そしてリテールメディアのルールです。AIが組むカートに販促商品を差し込むなら、どの意図にどの商品を入れてよいか、表示をどうするか、外された割合をどう計測するかを、メーカーとの取引条件とあわせて決めておく必要があります。Lylyk氏の言う一線は、広告を売る論理と、利用者の意図を代弁するAIの論理がぶつかる場所に引かれることになります。

両氏は、仕組みが固まっていないいまのうちに、自社の顧客と在庫で意図ベースの買い物を試すべきだと提言しています。将来は小売サイト、AIアシスタント、レシピやダイエットのアプリから食のニーズが伝えられ、技術がそれを商品に翻訳する姿を描いています。どの入口からの依頼でも自社の商品に翻訳できるデータを持つことが、その準備になります。食料品エージェントのもう一つの軸である予測補充は、食料品×エージェンティックコマースの解説で整理しています。

まとめ

Neomiの共同創業者が語ったのは、食料品のAIを「商品を探す道具」から「人の事情をカートに翻訳する道具」へ変えるという構想です。ロマンチックディナーにワインが入った例は、場面の記述が検索では届かない商品まで引き出せることを示しています。

一方で、公開されている実績は隠された導線での1件の試験にとどまり、販促商品を「意図に合うときだけ」入れるという一線も、判定の基準はまだ外から見えません。次に見るべきは、VARUS以外の小売での結果と平均注文単価や粗利への効果、そしてAIが組むカートに入る販促商品の基準を、小売やプラットフォームがどこまで利用者に開示するかです。