2026年6月19日

Targetが自社カタログを外部AIエージェントに開放、Google・Copilot・ChatGPTで商品を発見・購入できる構想を詳細公開

この記事のポイント

  1. Targetが自社の商品カタログをGoogle・Microsoft Copilot・ChatGPTの3つの外部AIプラットフォームに開放し、AI経由での発見・購入を可能にする構想を詳細公開した
  2. その背景には、AI経由の流入が四半期で前年比2,000%増という急激な消費者行動の変化があり、Targetはこれを業界標準のUniversal Commerce Protocol(UCP)で実装している
  3. 自社サイトへの集客から「AIエージェントが滞在する場所に商品を届ける」発想への転換は、すべてのEC事業者にとってカタログの再設計を迫る論点になる

Targetがサードパーティ向けAIコマース構想の全貌を公開

米大手リテーラーのTargetが2026年6月、自社の商品カタログを外部のAIエージェントやAIプラットフォームに開放する取り組みの詳細を公開しました。HomePage Newsが報じたこの構想の核心は、消費者がTargetのサイトやアプリに来るのを待つのではなく、消費者がすでに使っているAIの中に商品を届けるという発想の転換にあります。

Targetは、Google検索(AI ModeおよびGeminiアプリ)、Microsoft Copilot、OpenAIのChatGPTという3つの主要AIプラットフォーム横断で買い物体験を提供する初のマス・リテーラーだと公式に表明しています。いずれのプラットフォームでも、消費者は会話形式で商品を検索し、比較し、カゴに入れ、決済まで完結できます。

この動きが注目されるのは、単なる新チャネルの追加ではないからです。AIエージェントが購買を代行する「エージェンティックコマース」の時代に、リテーラーが自社の在庫・価格・ロイヤルティ情報をどう外部のAIに「読ませる」かという、商取引の土台に関わる選択だからです。

2,000%という数字が示す消費者行動の変化

なぜTargetは今、自社カタログを外部に開くのか。その答えは、消費者の流入経路に起きている急変にあります。

Targetによれば、AI経由でのサイト流入は2026年第1四半期に前年同期比で2,000%増加しました。これは小売サイト全体のAI流入増(約400%)を大きく上回る伸びです。ChatGPTからTargetへの流入だけでも、平均して毎月40%のペースで成長していると同社は説明しています。

注目すべきは、この流入が単なる「下調べ」で終わっていない点です。消費者はAIとの対話の中で商品アイデアを得て、複数商品のカゴを組み立て、自分のTarget Circle(ロイヤルティ口座)に紐づけて買い物を完結させています。つまり発見から決済までの一連の購買ジャーニーが、Target外の会話空間で進行し始めているのです。

Targetの最高デジタル・収益責任者であるSarah Travis氏は、この変化への対応をこう位置づけています。

より多くの人々がAIを活用した環境で商品を発見し、インスピレーションを得ています。私たちには、その買い物の道のりの途中で顧客と出会う、本物の機会があります。

ここで重要なのは、消費者が主導権を握り続けるという設計思想です。AIはアイデアの提示や選択肢のキュレーション、スムーズな決済を支援する役割にとどまり、最終的な購入判断は消費者が行います。Targetはこの線引きを明確にすることで、AIへの過度な委任に対する消費者の不安を和らげようとしています。

3つのプラットフォームでそれぞれ何ができるのか

Targetが開放した3つのチャネルは、それぞれ実装の深さと特徴が異なります。最も技術的に踏み込んでいるのがGoogleとの連携です。

GoogleのAI ModeおよびGeminiアプリでは、消費者がTargetの商品リストを閲覧し、その場で購入まで完了できます。この実装を支えているのが、後述するUniversal Commerce Protocol(UCP)です。消費者は「特定の用途や場面に合う商品は何か」と尋ね、Targetの品揃えからキュレーションされた提案を受け取り、Target Circleの特典やプロモーションを適用しながら全米どこへでも配送を手配できます。

Microsoft Copilotでは、Targetは顧客ロイヤルティ連携の早期ローンチパートナーとして参加しています。アカウントリンクによって、消費者はCopilotのチャット内でTargetアカウントにログインし、閲覧から購入まで完結できます。Target Circleのメンバーは限定割引と送料無料を、Target Circle Cardで支払う会員はさらに5%の割引を受けられます。

ChatGPTでは、複数商品を一度の取引で購入でき、生鮮食品の買い物にも対応します。受け取り方法もドライブアップ、店頭ピックアップ、配送から選べます。これらの違いを整理すると、次のようになります。

プラットフォーム実装の特徴ロイヤルティ・特典
Google(AI Mode / Gemini)UCP経由で商品閲覧から購入まで完結、全米配送に対応Target Circleの特典とプロモーションを適用
Microsoft Copilotアカウントリンクでチャット内ログイン・購入、決済連携の早期パートナー限定割引と送料無料、Circle Card払いでさらに5%引き
OpenAI ChatGPT複数商品を一度に購入、生鮮食品にも対応ドライブアップ・店頭ピックアップ・配送から選択

3チャネルに共通するのは、すべての入口でTarget Circleのロイヤルティ口座に接続できる点です。Targetは決済の利便性だけでなく、自社の顧客関係をAI空間の中でも維持する設計を貫いています。

カタログ開放を支えるUniversal Commerce Protocol

Targetの構想を技術面で支えているのが、Googleが主導する業界標準のUniversal Commerce Protocol(UCP)です。これは「AIエージェントが商品を発見し、購買ジャーニー全体で取引する方法」を定義するオープン標準で、2026年1月のNRF(全米小売業協会)の基調講演で発表されました。

UCPの参加企業には、TargetのほかShopify、Etsy、Wayfair、Walmartといったリテーラーや、Mastercard、Visa、Stripe、American Expressなどの決済事業者を含む20社以上が名を連ねます。Targetが共同開発企業の一角を占めている点は、この標準の方向性に影響力を持つ立場にあることを意味します。

仕組みの核心は、従来の静的な商品フィードとの違いにあります。UCPでは、リテーラーが自社の提供サービスとケイパビリティ(在庫照会、価格、決済、配送など)を/.well-known/ucpという標準化されたJSONマニフェストで公開します。AIエージェントはこのマニフェストを参照することで、ハードコードされた個別連携なしに、そのリテーラーが何をできるかを動的に発見できます。

この設計が画期的なのは、単なる商品名と価格の羅列ではなく、リアルタイムの在庫・動的価格・決済処理までを含む「能力」をエージェントに開放できる点です。決済面ではGoogleのAgent Payments Protocol(AP2)と互換性を持ち、トークン化決済と検証可能な資格情報でエージェントとバックエンド間の安全性を担保します。GoogleのAshish Gupta氏(マーチャントショッピング担当VP)は、Targetのような業界リーダーとの協働がエージェンティックコマースを規模化する鍵だと述べています。

WalmartやAmazonとの戦略の違い

Targetの動きは、競合大手の戦略と比較すると輪郭がはっきりします。同じUCP参加企業であるWalmartは、自社のAIアシスタント「Sparky」をChatGPTやGeminiに組み込みつつ、取引と顧客データを自社エコシステムに留める設計を取っています。Sparkyの利用者は非利用者より平均注文額が約35%高いと報じられています

Amazonはさらに垂直統合型です。自社アプリ内の「Rufus」と「Buy for me」で、発見から決済・配送までを自社の物流・決済基盤の上で完結させます。一方でAmazonは自社のAIショッピング技術を外部リテーラーにも提供し始めており、エージェンティックコマースの主導権争いは新たな局面に入っています。

この3社を並べると、Targetの立ち位置が見えてきます。Amazonが「すべて自社で抱える」垂直統合、Walmartが「自社AIを外部に持ち込む」ハイブリッドだとすれば、Targetは業界標準のUCPに乗り、複数の外部AIプラットフォームへ広く分散して露出する戦略です。自前のエージェント構築よりも、消費者がすでにいる場所への露出を優先する判断だと読めます。

なお、外部プラットフォーム依存にはリスクも伴います。OpenAIは当初のInstant Checkoutから方針を転換し、リテーラー専用アプリへユーザーを誘導する方式へ移行しつつあります。AI側の仕様変更がリテーラーの売り場設計に直接影響する構造は、この領域の不確実性を物語っています。

EC事業者は何を読み取るべきか

Targetの構想から日本のEC事業者が読み取るべき示唆は、自社サイトへの集客という発想そのものを見直す必要性です。AI経由の流入が四半期で2,000%伸びるという現実は、消費者の購買ジャーニーの起点が検索エンジンや自社サイトから、会話型AIへ移りつつあることを示しています。

この変化が突きつける問いは、自社の商品カタログがAIエージェントにとって「読みやすい」状態になっているかという点です。Targetが投資しているのは派手なAI機能ではなく、在庫・価格・ロイヤルティ・配送オプションといった商取引の基礎情報を、UCPのような標準形式でエージェントに開放することでした。Accentureの試算では、2030年までにオンライン商取引の30%以上、約3.1兆ドルがAIエージェント経由になる可能性が指摘されています。

同時に見落としてはならないのが、Targetが3チャネルすべてでロイヤルティ口座への接続を死守している点です。AIプラットフォームに発見と決済を委ねても、顧客との直接的な関係性は手放さない。この「露出は外、関係は内」というバランス感覚こそ、外部AIへのカタログ開放を検討するすべての事業者が参考にすべき設計思想です。

まとめ

TargetのサードパーティAIコマース構想は、リテーラーが自社サイトの外で勝負する時代の到来を象徴しています。鍵となるのは、UCPという業界標準を通じて商品カタログをAIエージェントに開放し、それでいて顧客ロイヤルティという最後の砦は自社に残すという二段構えの戦略です。

次に注目すべきは、UCPに代表される標準の普及度と、AIプラットフォーム各社の仕様変更がリテーラーにどう波及するかという点です。AIが買い物の起点になる流れは、もはや実験段階を越えつつあります。