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小売・事例2026年10月13日

Ulta BeautyのAI検索対策:買い物客のプロンプトを調べ、回答に載るコンテンツで順位を追う。AIで店舗の価値が上がる理由も

米美容小売Ulta BeautyのCMOが明かした、ChatGPT・Geminiに選ばれるための運用(プロンプト調査、回答になるコンテンツ、順位の追跡)と店舗の役割を解説。AI検索・エージェンティックコマースに備える小売・EC事業者向けです。

Ulta BeautyのAI検索対策:買い物客のプロンプトを調べ、回答に載るコンテンツで順位を追う。AIで店舗の価値が上がる理由も

この記事のポイント

  1. 米美容小売最大手Ulta BeautyのCMO、Kelly Mahoney氏が、ChatGPTやGeminiに打ち込まれる買い物客の質問を調べ、その答えになるコンテンツを置き、結果での順位を追って直すという「AIエージェント向けのマーケティング」の運用を明かしました
  2. コンテンツを供給するのはクリエイター、TikTok Shopのアフィリエイト、店舗スタッフで、同氏はAIで下調べした客ほど店に来ると主張します。根拠のNielsenIQ調査では、AIを使うアルファ世代の57%が店舗で商品を見て試し、非利用者は36%でした
  3. 日本の小売・ECにとっての示唆は、検索キーワードではなく「文章の質問」を起点にコンテンツを作ること、AIの順位は1回では測れないので出現率で見ること、そして店舗と店員をAI時代の受け皿として設計し直すことの3つです

Ulta BeautyのCMOが語った「エージェントに向けたマーケティング」

英国の広告業界誌The Drumが2026年10月12日、Ulta BeautyのCMO(最高マーケティング責任者)Kelly Mahoney氏へのインタビューを掲載しました。同誌の連載「All Media Is Commerce Media」の1本で、聞き手はJenni Baker氏です。Mahoney氏は同社に11年在籍しています。

インタビューの軸は1つの言い方に集約されています。Ultaはこれまで毎日、来店客に対して最高のマーケターであろうとしてきた。これからは、買い物客が使うAIエージェントに対しても最高のマーケターでなければならない、というものです。

Ultaは2026年4月、Googleと組んでGeminiベースの自社アシスタント「Ulta AI」を立ち上げ、UCP(Universal Commerce Protocol)でGoogleのAI ModeやGeminiアプリから商品を買えるようにしました(詳しくはUlta BeautyとGoogle Geminiの提携の解説)。あの発表は「AIの中で買える仕組み」の話でした。今回語られたのは、その手前にある問いです。ChatGPTやGeminiが商品を勧めるとき、そもそもUltaの名前と商品が答えに出てくるか。今回のインタビューでは、提携や決済の仕組みには触れていません。

プロンプトを調べ、答えを置き、順位を追う:Ultaの運用を分解する

Mahoney氏が明かした運用は3段階でできています。

最初の段階は、買い物客がChatGPTやGeminiに打ち込む文章の形をした質問(プロンプト)を調べることです。検索エンジンなら「ニキビ 化粧水」のような単語の組み合わせで済みました。AIに対しては、肌の状態、年齢、予算、避けたい成分まで含めた一文で聞くのが普通です。調べる対象が「キーワード」から「質問文」へ変わったことが、この運用の出発点になっています。

次の段階で、その質問への答えになるコンテンツを作り、大規模言語モデル(LLM、ChatGPTやGeminiの中核にあるAI)が情報源にしていることがわかっている場所に置きます。どの媒体やプラットフォームなのかは、インタビューでは明かされていません(未開示)。自社サイトだけに書いても足りない、という前提に立っている点が大事です。

最後の段階が計測です。Ultaはプロンプトの結果の中で自社がどの位置に出てくるかを測り、その結果を見てコンテンツを直しています。どの質問を何本追っているのか、どのツールで測っているのか、順位がどれだけ改善したのかは、いずれも明かされていません。

では、そのコンテンツを誰が作るのか。Ultaの答えは「人」です。マクロインフルエンサー、TikTok Shopで商品を紹介するクリエイター、そして店舗スタッフです。同社には「Ulta Beauties」という、店舗スタッフに自分でコンテンツを作る訓練をする仕組みがあります。売り場で毎日客の悩みを聞いている人が、そのまま発信者になる設計です。

Mahoney氏はクリエイターのコンテンツを「新しい形のワーキングメディア」と呼んでいます。ワーキングメディアは広告業界の用語で、制作費や手数料ではなく、実際に消費者へ届く広告枠に使われるお金を指します。クリエイターの投稿を「おまけの発信」ではなく、広告費をかける価値のある本業の媒体として扱う、という宣言です。AIが答えを組み立てるときに拾う材料にもなる以上、この位置づけは理にかなっています。

TikTok Shopはその供給源の1つです。Ultaは2026年3月、米国の美容・ウェルネス専門小売として初めてTikTok Shopに出店しました。Cosmetics Businessの報道によると、15以上のブランドと25以上の限定セットで始まり、成果報酬型のプログラムでクリエイターやアフィリエイトと組んでいます。Mahoney氏は、TikTok Shopで新しく獲得した客が、のちに店舗に来て品ぞろえの全体を見ていると話しています。ただし、その人数や割合は示されていません。

この3段階は、日本で「LLMO」や「GEO」と呼ばれる取り組みと同じ方向を向いています。違いは、Ultaがそれをマーケティング組織の通常業務として回し、店舗スタッフまで巻き込んでいる点にあります。クリエイターがAI検索の材料になる流れは、LTKのAI検索タブの解説でも触れました。

AIの「順位」はどこまで当てになるか

AIの答えの中の「順位」は、検索エンジンの順位ほど安定していません。

SparkToroのRand Fishkin氏とGumshoe.aiのPatrick O'Donnell氏は、2025年11〜12月に、ChatGPT、Claude、GoogleのAI(AI OverviewsとAI Mode)にブランドを勧めてもらう12種類の質問を、それぞれ60〜100回ずつ投げました。合計は2,961回です。Search Engine Journalのまとめによると、ChatGPTとGoogleのAIで同じブランドの一覧が返ってきたのは1%未満、同じ順番まで一致したのは0.1%未満でした。

質問する側もばらばらです。ヘッドホンについて142人に自由に質問を書いてもらうと、文面の意味の近さを示すスコアは0.081にとどまりました。一方で、ヘッドホンの994件の回答では、Bose、Sony、Sennheiser、Appleが55〜77%の割合で登場していました。順番は毎回変わっても、「出てくるかどうか」の割合は比較的安定しているというのが著者らの結論です。

この調査は査読を受けておらず、AIの露出を測るツールを売るGumshoe.aiが一部の費用を出しています。それでも、1回の質問で「何位だった」と一喜一憂する計測が危ういことは、運用する側が押さえておくべき点です。Ultaが言う「順位の追跡」も、外から見る限りは中身がわかりません。自社で同じことをするなら、質問の言い回しを何通りも用意し、同じ質問を何度も投げ、出現率として見る設計が欠かせません。

AIは店舗を不要にしない、というUltaの賭け

Mahoney氏が意外だった例として挙げたのは若い男性です。肌の悩みを店員に聞くのをためらってきた層が、まずChatGPTやGeminiに相談するようになりました。AIで下調べをしたことで、何を聞けばいいかがわかり、自信を持って店に来て店員と話せるようになった、というのです。同氏は、この層にとっての壁は店に入る自信のなさだったと見ています。

根拠として示されたのが、Ultaが依頼し、NielsenIQ(NIQ)が実施した調査「Smart Beauty: AI, Personalization & the Gen Alpha Consumer」です。Ultaの2026年6月18日の発表によると、2026年4〜5月に米国のアルファ世代522人と、その保護者500人に聞いています。主な数字は以下のとおりです。

  • AIツールを使う人の57%が店舗で商品を見て試しており、使わない人は36%だった
  • 78%がオンラインで美容商品を知り、77%がそのあと店で試したり家族や友人に聞いたりして確かめている
  • 10代の男子の26%がAIの買い物アシスタントを使っており、ほかのアルファ世代(約15%)の2倍近い

ただし、読み方には注意が要ります。57%と36%の差は、AIを使う人と使わない人の行動の違いを示すだけで、AIが来店を増やしたという因果までは示していません。AIを使う子どもは年齢が高い、美容への関心がもともと強いといった別の違いがあってもおかしくありません。発表では回答者の年齢の範囲も示されていません。調査を依頼したのは店舗を持つUlta自身であり、結論が自社の戦略に沿う形で語られていることも差し引いて読むべきです。

それでも、店舗網を持つ小売にとって筋の通った見立てであることは確かです。Ultaの2026年度第2四半期(8月1日まで)の決算発表では、売上高が前年同期比8.9%増の30億3,570万ドル、既存店売上高は3.8%増で、期末の店舗数は1,622でした。これだけの店舗を持つ企業にとって、AIは店に来る客を減らす脅威ではなく、店に来る前の不安を解消してくれる案内役として扱う方が合理的です。

Mahoney氏は、店員と客の間にiPadを置くようなことはしたくない、とも話しています。テクノロジーは店員を助けるために使い、接客の邪魔をさせない、という線引きです。AIエージェントは、出迎え、教え、支える店員の代わりにはならない、というのが同氏の立場です。

顧客の層ごとに組む「フュージョンチーム」

Ultaは、マーケター、クリエイティブ、メディアの担当者、プロダクトオーナー、技術者を混ぜた小さなチームを作り、チームごとに担当する顧客の層を持たせています。各チームは、自分たちの作る体験が価値を生んでいるかを測る責任も負います。以前は「アジャイルポッド」と呼んでいましたが、Mahoney氏がその呼び名を好まず、「フュージョンチーム」に改めました。

AIは商品の推薦やメディアの判断には使う一方、何を伝えるか、どんな表現にするかの方向は人が決める、というのが同氏の考えです。プロンプトの調査からコンテンツの修正までを1つのチームで回せる体制が、先の3段階の運用を支えていると読めます。

日本の小売・EC事業者が参考にできること

Ultaの運用を、日本の小売・EC事業者の手元の作業に置き換えると、次のようになります。

Ultaの打ち手中身日本の小売・ECでの置き換え
プロンプトの調査ChatGPT・Geminiに打ち込まれる文章型の質問を調べるCSへの問い合わせ文、店頭での相談、レビューの文面から「肌悩み+条件」型の質問を集める
回答になるコンテンツ質問に答える内容を作り、モデルが情報源にする場所へ置く(具体的な場所は未開示)悩み別の比較・使い方ガイドを自社サイトと外部の情報源の両方に置く
順位の追跡と調整プロンプトの結果での自社の順位を測り、内容を直す1回の順位ではなく、同じ質問を何度も聞いたときの出現率で見る
コンテンツの供給元クリエイター、TikTok Shopのアフィリエイト、店舗スタッフ(Ulta Beauties)店舗スタッフやBA(美容部員)の知見を、発信できる形にする
店舗の役割AIで下調べした客を迎え、試させ、相談に乗る場所AIで来た客の質問に応える接客と、試せる売り場を用意する

最も手をつけやすいのは、質問文を集めることです。CSへの問い合わせ、店頭での相談、レビューには、「乾燥肌で敏感、30代、5,000円以内で」のような、AIに打ち込まれるのとほぼ同じ形の文章がすでにたまっています。これを起点にすれば、検索キーワードの一覧から作るよりも、AIの答えの材料になりやすいコンテンツに近づきます。

店舗を持つ事業者には、店員の知見を外に出す仕組みも検討の価値があります。日本の化粧品売り場には美容部員という専門職がいて、その知識はUlta Beautiesと同じ種類の資産です。売り場の会話で終わらせず、発信できる形にしておけば、AIが拾う材料にもなり、AIで下調べをしてきた客の受け皿にもなります。

まとめ

Ulta BeautyのCMOが語ったのは、AIエージェントへの対応を特別なプロジェクトではなく、マーケティングの日常業務として回す姿でした。質問文を調べ、答えを置き、結果を測って直す。その材料を店員とクリエイターが供給し、AIで自信をつけた客を店舗が迎える、という循環です。

順位の測り方や成果の数字はまだ外からは見えません。次に注目したいのは、Ultaがこの運用の成果をどの指標で示すのか、そしてTikTok ShopやGeminiの中での購入と店舗の来店が、決算の中でどう語られていくかです。