この記事のポイント
- 百度がMEGを再編し、コマース部門とEC事業部を「大商業事業部」に統合。デジタルヒューマン事業も独立部門に格上げした
- 一連の組織再編は、検索・広告・コマースをAIエージェント中心の枠組みに再構築する大きな転換の一環である
- EC事業者にとっては、検索プラットフォーム自体がコマースの入口へと変質する流れを読む手がかりになる
百度が描く「AIネイティブ」へのコマース統合

Baidu's Mobile Ecosystem Group (MEG) has undergone another significant organizational shakeup, consolidating its commerce and e-commerce operations into a single business unit as the Chinese internet giant accelerates its transition toward an AI-native model.
pandaily.com2026年6月、中国の検索大手・百度(Baidu)が、モバイルエコシステムグループ(MEG)の組織を再び刷新しました。今回の再編で、従来の「コマース部門」と「EC事業部」が統合され、新たに「大商業事業部(Big Commerce Business Unit)」が発足しています。率いるのは副総裁の平暁黎(Ping Xiaoli)氏です。
注目すべきは、この統合と同時にデジタルヒューマン革新事業部が独立した部門へと格上げされ、こちらも平氏の管轄下に置かれた点です。広告・コンテンツ・コマース・デジタルヒューマンによる収益化を、ひとつのAIファーストの枠組みに束ねる意図がうかがえます。
平氏は2007年にインターンとして百度に入社し、その後Baidu Appの責任者として日次アクティブユーザーを1億人から2億3000万人へと伸ばした人物です。2025年8月に副総裁へ就任しており、今回の人事はコマース領域の重要性が社内で高まっていることを物語っています。
2026年に加速する一連の再編の文脈
今回のMEG再編は、単発の出来事ではありません。百度は2026年に入ってから、製品ポートフォリオ全体をAIへ寄せる組織変更を立て続けに実施してきました。
時系列を追うと、その意図がより鮮明になります。1月には文庫(Wenku)と網盤(Wangpan)を統合して「個人スーパーインテリジェントグループ(PSIG)」を新設し、CEOの李彦宏(Robin Li)氏の直轄としました。3月には大規模言語モデルを検索・レコメンド製品へ統合。5月には大規模言語モデルの研究開発を一本化する「百度モデル委員会(BMC)」を立ち上げ、若手AI研究者を登用して意思決定のサイクルを短縮しました。そして6月のMEG再編が、この変革の最新フェーズにあたります。
半年間でこれだけの再編が続く背景には、検索という百度の本丸そのものをAIで作り直すという危機感があります。kr-ASIAの報道によれば、百度は文心一言(ERNIE)をBaidu Appに組み込み、月間7億人のユーザーにLLMベースの検索体験を届ける方針を打ち出しています。検索の入口がAIへ移るなら、その先にあるコマースの設計も当然作り替える必要がある、という連続した論理がここにあります。
デジタルヒューマンという賭けの中身
今回の再編で最も象徴的なのが、デジタルヒューマン事業の独立です。百度はこの領域を、コマース戦略の中核に据えようとしています。
中心にあるのが「慧播星(Huiboxing)」から名称変更された「易境(Yijing)」プラットフォームです。同社はこれを「世界初のフルシナリオ・マルチエージェント・デジタルヒューマンプラットフォーム」と位置づけています。デジタルヒューマンとは、AIが生成・操作する仮想の人物像を指し、ここではライブコマースの配信者(アンカー)として活用されます。2025年末時点で、易境には10万体を超えるデジタルヒューマンアンカーが登録され、30以上の業種で稼働しているとされます。
この賭けが机上の空論でないことは、実績が示しています。2025年6月、著名インフルエンサー羅永浩(Luo Yonghao)氏のAIアバターが百度のECプラットフォームで初配信を行い、TechNodeの報道によれば1300万人超の視聴者を集め、約5500万元(約766万ドル)の流通取引総額(GMV)を生み出しました。
数字の裏側にある技術も興味深いものです。この6時間の配信で、AIシステムは1万3000点の商品知識ベースを参照し、9万7000語の商品説明を生成、8300以上のアバターの動作を制御したとされます。人間のトップ配信者を一人雇うよりも、24時間稼働可能なデジタルヒューマンを大量に展開するほうが、規模の経済が効く。百度はこの方向に明確な手応えを得ているようです。
検索からエージェントへ──百度の戦略的座標
なぜ百度はコマースとデジタルヒューマンをここまで重視するのでしょうか。答えは、同社が自らを「検索企業」から「エージェント企業」へと再定義しつつある点にあります。
2026年初頭、CEOの李彦宏氏は社内向けの講話で、百度のエージェントを4種類に明確に分類しました。最優先と位置づけられたのが「検索エージェント」、続いて慧播星ブランドの「デジタルヒューマンエージェント」、Miaodaで提供される「コーディングエージェント」などです。さらにCreate 2026イベントでは、AI製品の成果を測る新指標として「デイリーアクティブエージェント(Daily Active Agents)」を提唱しています。
ここで重要なのは、デジタルヒューマンが単なる配信ツールではなく、エージェントの一類型として捉えられている点です。商品知識を理解し、視聴者の質問に応答し、購買へ誘導する。これは会話を通じて取引を完結させるエージェンティックコマースの一形態と言えます。検索エージェントが商品を発見し、デジタルヒューマンエージェントが説得と購買を担う、という分業の構図が見えてきます。
中国プラットフォーム競争という全体像
百度の動きは、中国のテック大手が一斉に進めるエージェンティックコマース競争の一環として理解する必要があります。各社が検索バーをAIエージェントに置き換え、コマースを新たな主戦場と位置づけています。
競争の激しさは投資額に表れています。CNBCの報道などによれば、2026年の春節期間だけで中国大手はAIショッピング普及の補助金に約6億4700万ドルを投じたとされます。内訳はアリババが4億3100万ドル、テンセントが1億4400万ドル、そして百度が7200万ドルです。
ここで百度の立ち位置がはっきりします。アリババはQwenを軸に消費者プラットフォームで月間3億ユーザーへ到達し、テンセントは13億ユーザーを抱えるWeChatにエージェント機能を組み込もうとしています。スーパーアプリとエコシステムを持つ両社に対し、百度は検索とデジタルヒューマンという独自の強みで差別化を図る構図です。今回のMEG再編は、限られたリソースをこの二つの武器に集中させるための布石と読めます。
| プラットフォーム | 主なエージェント基盤 | コマースの中核アプローチ |
|---|---|---|
| 百度(Baidu) | 検索エージェント/文心一言 | 検索起点の発見+デジタルヒューマン配信 |
| アリババ(Alibaba) | Qwen | 消費者プラットフォーム統合型のAIショッピング |
| テンセント(Tencent) | WeChat内エージェント | スーパーアプリ内での購買・予約・決済 |
EC事業者が読み取るべき示唆
日本のEC事業者にとって、遠い中国の組織再編は一見すると関係が薄く思えるかもしれません。しかし、ここで起きている構造変化は、市場を問わず普遍的な意味を持ちます。
最大の示唆は、検索プラットフォームそのものがコマースの入口へと変質しているという点です。ユーザーがAIに質問し、AIが商品を発見・比較・推奨し、デジタルヒューマンが購買へ導く。この一連の流れの中で、従来の「検索結果ページに広告を出す」というモデルは過渡的なものになりつつあります。商品情報がAIエージェントに正しく理解され、推奨される設計が、新たな競争軸になります。
もうひとつは、ライブコマースの担い手が人間からAIへ移行する可能性です。羅永浩氏のアバター事例が示すように、トップ配信者の能力を学習したデジタルヒューマンが24時間稼働する世界では、配信のコスト構造と規模が根本から変わります。商品知識ベースの整備、つまり自社商品をAIが正確に語れるようにするデータ準備が、これまで以上に重要な投資領域になるでしょう。
まとめ
百度のMEG再編は、検索企業がコマース企業へ、さらにはエージェント企業へと脱皮しようとする過程の一断面です。コマースとECの統合、デジタルヒューマン事業の独立は、いずれもAIを軸に収益化を再設計する明確な意思の表れでした。
中国市場で先行するこの動きは、検索とコマースの境界が溶けていく未来を先取りしています。AIエージェントが発見から購買までを担う世界で、自社の商品がどう語られるか。その問いに向き合う準備が、今まさに各事業者に求められています。





