AIコマース2026年9月9日

ChatGPT広告の実績値をCriteoが開示、新規顧客80%とCV1.5〜2倍が広告予算を動かす

CriteoのCEOが9月8日、ChatGPT広告の運用実績を初めて数字で説明しました。新規顧客比率80%、コンバージョンは検索の1.5〜2倍。日本の広告主が出稿できる条件、予算がどこから移るのか、計測の限界までEC事業者向けに解説します。

この記事のポイント

  1. CriteoのCEOであるMichael Komasinski氏が9月8日、CitiのカンファレンスでChatGPT広告の運用実績を数字で説明しました。ミドルファネル用途では有料流入の80%が新規顧客で、ロワーファネルのコンバージョンは従来の検索広告の1.5〜2倍にあたるとしています
  2. この2つの数字が本当なら、予算はコネクテッドTVとソーシャル、そして商品リスト広告から移動します。Komasinski氏自身がその移動先を名指ししました
  3. 日本の広告主はすでに6月からChatGPT広告の在庫にアクセスできます。一方で計測は未成熟で、ChatGPT広告全体に占める小売カテゴリの比率はむしろ下がっています。数字は割り引いて読む必要があります

「テストは2か月」という運用の手ざわり

AI広告の話題はこれまで、市場規模の予測か提携の発表かのどちらかでした。9月8日にニューヨークで開かれたCitiのTMTカンファレンスで出てきたのは、そのどちらでもありません。実際に出稿している広告主が、どう振る舞っているかという話です。

登壇したのはCriteoのCEO、Michael Komasinskiです。就任から18か月。Criteoは2026年3月にOpenAIの広告パイロットに参加する最初のアドテクパートナーとなり、以来ChatGPT広告への出稿経路を提供してきました。

その運用の実感として語られたのが「2か月」という期間です。広告主は1つのキャンペーンにつき数週間かけて評価と調整を回し、他の施策と比べてどうかの手応えを得るまでにおよそ2か月かかります。だから最初の大きな節目は10月から11月のホリデーシーズンで、次が年始の予算策定期になる、という説明でした。ここで各社がChatGPTを「always on」の枠に入れるかどうかが、業界全体にとっての最初のシグナルになります。

80%と1.5〜2倍という2つの数字

Komasinski氏が「データに何度も出てくるので繰り返し共有している」と表現したのが、新規顧客比率です。

ミドルファネル、つまり認知から比較検討に至る段階の用途において、ChatGPT経由の有料流入の80%が「new to brand」、そのブランドを初めて訪れる顧客だったとしています。この数字はCriteoの6月の公式発表でも「広告経由のChatGPTトラフィックの80%以上が新規顧客」として公表されており、8月の欧州拡大の発表でも同じ水準が維持されています。

もう一方はロワーファネルの話です。購入直前の刈り取り用途では、コンバージョンが従来の検索広告の1.5倍から2倍になります。3月の発表時点では、LLM経由の流入は他の参照元と比べて約1.5倍の率で成約するという控えめな表現でしたが、これは米国の小売事業者500社を対象にした2026年2月の集計です。半年でレンジの上端が2倍まで伸びたことになります。

なぜこうなるのかは、広告が出る場所を考えれば理解しやすいはずです。会話型AIに商品を尋ねる人は、すでに「何を買うか」ではなく「どれを買うか」の手前にいます。ブランドを指名して検索する人はもともとそのブランドを知っていますが、「30代の敏感肌向けの日焼け止め」と尋ねる人は、まだ候補を持っていません。だから新規顧客の比率が高くなり、同時にその会話は購入意図が濃いためコンバージョンも高くなります。

予算はどこから抜けるのか

ここが今回の発言でもっとも実務に効く部分です。司会者が「その予算はどこから来るのか」と直球で聞き、Komasinski氏は移動元を明示しました。

ファネルChatGPT広告の強み予算が抜けうる既存チャネル
ミドルファネル(新規獲得)有料流入の80%が新規顧客コネクテッドTV、ソーシャル広告
ロワーファネル(刈り取り)コンバージョンが従来検索の1.5〜2倍商品リスト広告(PLA)、CPC次第でブランド指名検索
純増の可能性真に増分的なら広告費総額を押し上げる既存チャネルからの移動ではなく上乗せ

新規顧客の獲得はもともとコネクテッドTVとソーシャルの役割でした。そこにChatGPTが同じ目的でより良い数字を出せば、予算は動きます。ロワーファネルでは商品リスト広告、つまりGoogleショッピングのような商品広告が最初に圧迫される。CPCの水準によっては、ブランド指名検索の一部にも影響が及ぶという見立てでした。ただし検索広告全体が置き換わるわけではなく、あくまで特定のタクティクスが対象だと本人も限定しています。

一方で、Komasinski氏は「もし本当に増分を生んでいるなら、GDPに対する広告費の比率そのものを押し上げる可能性もある」とも述べています。既存予算の奪い合いなのか純増なのかは、ホリデーシーズンの結果を見るまで確定しません。

日本の広告主はすでに出稿できる

日本のEC事業者にとって重要な前提を確認しておきます。出稿できる市場は米国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、メキシコ、ブラジルから広がり、2026年6月からは英国、日本、韓国の広告主もCriteo経由でChatGPT Ads在庫にアクセスできます。8月には欧州31市場、その後に中東11市場が加わり、Criteo経由の対応市場は51に達しました。日本はすでに「これから来る市場」ではありません。

出稿の入口も広がっています。同じ6月の発表で、CriteoのセルフサービスプラットフォームであるCriteo GOからもChatGPT Ads在庫が扱えるようになりました。中小規模の事業者でも管理画面から触れるということです。カテゴリ別に見ると、アパレル、家具インテリア、家電、自動車、ビューティの5つがChatGPT広告を回している主要カテゴリだとされています。

Criteoが提供している価値は、広告枠の仲介そのものではありません。本人の言葉を借りれば「入力を最適化し、出力を説明する」ことです。

どのSKUを広告に出すのか。そのSKUに紐づくデータは最新か。メタデータは正しいか。関連性シグナルを引き出せるだけの深さと豊かさがあるか。

入力側は、広告に出すSKUの選定とメタデータの補強、そしてプロンプトヒントの設計です。Criteoは日常的に250億件の生SKUを取り込み、約50億件の実用可能なカタログへ正規化していると説明しています。同じ掃除機のわずかに異なる商品情報を、同一の商品として束ねる作業です。出力側は、ChatGPT経由の流入が他の有料チャネルと比べてどうだったかというクロスチャネル計測を担います。

数字を割り引いて読むべき理由

ここまではCriteo側の説明です。反対側の材料も見ておく必要があります。

まず、Criteo自身が慎重です。Komasinski氏は業績ガイダンスを出すことに保留をつけており、理由として「クライアント数はそれなりだが、1社あたりの予算は相対的に小さい」と述べています。2027年には「meaningful(意味のある)」貢献になると見ているものの、どの指標でいくら、という具体的なガイダンスの形式は未開示です。公表されている「2,000社超の広告主」も6月時点の数字で、更新はOpenAIと共同で今秋を予定していると答えるにとどまりました。

より効く反証は第三者データのほうです。Sensor Towerが9月1日に公開した調査をPPC Landが報じたところによると、米国のChatGPT広告費に占めるショッピング・小売カテゴリの比率は、2026年4月の37%から8月には21%へ下がっています。金融サービスが2%から13%、ソフトウェアが13%から16%へ伸びた結果です。依然として小売は単独最大のカテゴリですが、ChatGPT広告市場そのものはコマース以外の用途に重心を移しつつあります。「AIコマースの入口」という物語だけで理解すると、実際の在庫争いを見誤ります。

計測の未成熟も指摘されています。AdExchangerが9月3日に広告主へ取材した記事では、競合データが取れないこと、コンバージョン計測とオーディエンス設定が限定的であること、複数の広告主を1つの画面で管理できないことが挙げられ、ある実務者はプラットフォームを「かなり初歩的」と評しています。OpenAIの10億ドルというランレート自体、同社が以前示していた2026年の広告収入25億ドルという見通しには届いていません。加えて、AI経由の参照トラフィックはSimilarwebの2026年データでも大半のサイトで全体の数パーセント程度にとどまっています。

つまり、単価が高い流入が少量ある、というのが現在地です。80%や2倍という比率は、母数が小さいときにこそ大きく出やすい数字でもあります。

EC事業者は何から手をつけるか

やることの順番は、上の材料からかなり明確に決まります。

第一に、商品データの整備が先です。ChatGPT広告に出せるかどうかは、SKUのメタデータが会話の文脈と噛み合うかにかかっています。Criteoがわざわざ250億件を50億件に正規化しているのは、それが関連性の前提だからです。広告費を積む前に、ECサイトのLLMO対策で扱った商品情報の粒度を先に整えるほうが効きます。

第二に、テスト期間を2か月で見積もることです。1週間で判断しても意味のある差は出ません。ホリデー商戦に間に合わせたいなら、逆算するとすでに動き出している必要があります。

第三に、計測の穴を自社側で埋めることです。プラットフォーム側の計測が弱い以上、流入元の分離とラストクリック以外の評価軸を自前で持たないと、比較ができません。ChatGPT広告が欧州31市場へ拡大した際にも触れたとおり、広告枠の獲得とオーガニックな可視性は同じ会話の中で競合します。片方だけを最適化しても、AIの回答に自社が並ぶ確率は上がりません。

まとめ

今回開示されたのは、AI回答面の広告が「効くらしい」から「どう効いているか」へ一歩進んだ数字です。新規顧客80%とコンバージョン1.5〜2倍が、テスト予算をalways onの枠へ動かせるかどうか。その答えは10月から11月のホリデーシーズンに出ます。

見るべきは2つです。Criteoが今秋に更新するとしている広告主数と、Sensor Towerが追っている小売カテゴリの構成比。前者が伸びて後者が下げ止まれば、AIの回答面は本当にコマースの入口になります。どちらか一方だけなら、まだ様子見の期間が続きます。