この記事のポイント
- 推進する側から慎重論が出始めました。MastercardのCEOは、AIエージェントが消費者のカードで買い物をする未来について「何か問題が起きたら誰が責任を負うのか」「そのエージェントは本物か」と、消費者保護の未解決課題を相次いで提起しました。楽観論一色だった議論に、決済インフラの当事者から重い問いが投げかけられています
- AIの役割が「買う」から「企業運営の自律実行」へ広がっています。commercetoolsは、AIが顧客の代理で買う「エージェンティックコマース」の先に、価格・在庫・販促をAIが自律的に動かす「Autonomous Commerce」という新カテゴリを提唱し、年間1,000億ドル超のGMVを支える新基盤Sphereを発表しました
- 決済とインドの実装が同時に動いています。KlarnaはAIが決済手段を選ぶ世界での「トップ・オブ・ウォレット」争いを語り、HSBCはMastercardとB2Bエージェント決済を試験運用。MeeshoはAIがすでに全注文の75%を駆動していると明かしました
今日の注目ニュース
Mastercard CEO、AIエージェンティックコマースに「重大な懸念」──推進側からの慎重論

Urgent questions are emerging about what happens when AI agents start spending your money.
www.thestreet.com世界最大級の決済ネットワークを率いるMastercardのMichael Miebach CEOが、AIエージェンティックコマースについて、機会よりも未解決の消費者保護課題に焦点を当てた発言をしました。Yahoo Financeの番組で、エージェンティックコマースはAIが「最も速く、最も広く私たちの生活に触れる」用途だと位置づけつつ、すぐに懸念へと話を転じています。
問いはどれも実務の核心を突きます。「何か問題が起きたらどうなるのか」「エージェントは消費者の支出指示を忠実に守るのか」、そして「そのエージェントは本当に名乗っている通りのものなのか」という本人確認の問題です。Miebach氏は、まず「支援付きのエージェント決済」から始まり、やがて人間の関与が最小化された「完全に自律的な支出」へ進む段階論を描きました。
注目すべきは、これがエージェント決済を推進する当事者からの発言である点です。RobinhoodやStripeがすでにAI主導のカード決済基盤を構築するなか、技術は到来している一方で業界のセーフガードと消費者保護が追いついていないという認識が、インフラの内側から示されました。
詳細記事: Mastercard CEOがAIエージェンティックコマースに「重大な懸念」──本人確認・返金責任という決済の宿題
commercetools、「Autonomous Commerce」を提唱しSphereプラットフォームを発表

commercetools declares 'Autonomous Commerce' the next major era in commerce in which AI systems make and execute operational decisions in real-time.
www.prnewswire.comヘッドレスコマースを切り開いたcommercetoolsが、AI時代の新カテゴリとしてAutonomous Commerce(自律型コマース)を打ち出しました。AIが顧客の代わりに買う「エージェンティックコマース」に対し、自律型コマースは価格・在庫・マーケティングといった企業オペレーションをAIがリアルタイムで自律実行する概念です。人間の入力を待たず、シグナルを感知して最適な行動を決め、ルールと境界の内側で実行します。
同時に発表された新プラットフォームcommercetools Sphereは、すでに年間1,000億ドル超のGMVを平均60ミリ秒未満で処理しているといいます。カート・注文・チェックアウト・在庫・検索・販促などのモジュールを備え、自社・サードパーティ・顧客のどのAIエージェントもAPIにアクセスできる安全な入口を提供しつつ、各エージェントに何を許可するかは企業がガードレールとして握り続ける設計です。
「モノリシックからヘッドレスへの移行以来、最大の転換」とDoug McNary CEOは表現します。人間向けにサイトを最適化してきた10年から、人間とAIエージェントの双方が自律的に動く基盤づくりへ──プラットフォーム側の発想の転換が鮮明です。
詳細記事: commercetoolsが「Autonomous Commerce」提唱──Sphere発表とエージェンティックコマースとの違い
Klarna、AIコマース時代の「トップ・オブ・ウォレット」争奪戦を語る

CEO Sebastian Siemiatkowski thinks there's still a place for brand loyalty and perks in a bot shopping world.
www.semafor.comBNPL大手KlarnaのSebastian Siemiatkowski CEOが、Semaforのポッドキャストで、AIがショッピングを代行する世界での決済手段の立ち位置を語りました。ボットが買い物をする時代でも、ブランドロイヤルティや特典が消えるわけではないという見立てです。
論点は、AIエージェントが決済手段を選ぶようになったとき、どの決済がデフォルトとして選ばれるかという「トップ・オブ・ウォレット」の争奪です。eコマースの拡大とともに成長してきたKlarnaにとって、購買の起点がAIへ移ることは、自社の決済ボタンが人間の目に触れなくなる可能性を意味します。Klarnaが銀行化するのか、AIカスタマーサービスの実態はどうかといった話題にも及びました。
決済プレイヤーが、エージェント経由の購買フローのなかで存在感をどう保つか。EC事業者にとっても、AIが選ぶ決済の条件が今後の購買導線を左右する論点です。
詳細記事: KlarnaのCEOが語る「トップ・オブ・ウォレット」──AIが決済を選ぶ時代の生き残り戦略
エージェンティックコマース
Meesho、AIがすでに全EC注文の75%を駆動──「Bharat」を理解する戦略

Meesho is using AI to rethink how India's next-billion shoppers discover and buy products.
analyticsindiamag.comインドのソーシャルコマース大手Meeshoが、AIをすでに全EC注文の75%を駆動する基盤として活用していると、Chief Data ScientistのDebdoot Mukherjee氏が明かしました。検索バーと商品リストを起点とする米国型のUXを見直し、「近所の店主との会話」に近い購買体験を目指すといいます。
GoogleやOpenAIがAIコマースに進出するなか、Meeshoが武器にするのはBharat(非大都市圏・新興層)の買い物客への理解です。価格感度や言語、購買文脈が大都市と異なる層に、会話型の発見体験を最適化する方向に賭けています。
詳細記事: Meesho、AIが注文の75%を駆動──「Bharat」を理解するインド流AIコマース戦略
HSBC×Mastercard、シンガポールでB2Bエージェント決済を試験運用

The pilot comes as HSBC and Google Cloud expect ASEAN digital commerce transaction volume to grow from US$175 billion in 2025 to US$580 billion by 2030.
fintechnews.sgHSBCがMastercardと組み、シンガポールでB2B(企業間)のエージェンティック決済を試験運用しました。法人バイヤーとSourceSage、FortyTwoを結ぶ取引フローのなかで、AIエージェントが発注から決済までを担う構図です。消費者向けの議論が先行するエージェンティックコマースに、B2Bという新しい切り口が加わりました。
背景には市場の急拡大予測があります。HSBCとGoogle Cloudは、ASEANのデジタルコマース取引額が2025年の1,750億ドルから2030年に5,800億ドルへ伸びると見込んでいます。承認フローや与信が絡むB2B取引にエージェントが入ることの意味は、調達の自動化を考えるうえで見逃せません。
詳細記事: HSBC×Mastercard、シンガポールでB2Bエージェント決済を試験──法人取引にAIが入る意味
Getnet、AIエージェント発の決済を受け付ける基盤を開発

Getnet, Santander's global merchant payments platform, continues to advance its agentic commerce strategy with new AI-powered capabilities.
www.santander.comSantander傘下の加盟店決済プラットフォームGetnetが、加盟店が自社のAIエージェントや会話型プラットフォーム経由のエージェントからの決済を受け付けられる基盤を開発しました。オープン標準に基づき、相互運用性とセキュリティを備え、プロトコルに依存しない設計とされています。
すでにMastercard Agent Payとの互換性を実現し、Visa Intelligent Commerceとの統合も進行中です。メキシコと中南米では、住宅フィンテックNeivorのAIエージェントを使い、Mastercard Agent Payでエージェント発の決済を処理する初の実例を試験。当初は自社でAIエージェントを運用する企業向けですが、中小企業がエージェント機能を内蔵した形で利用できる解決策も計画しています。
MetaMask、独立型のエージェントウォレットを公開──Coinbaseに続く

MetaMask has launched a dedicated Agent Wallet that allows users to connect AI agents and automate crypto trading and other on-chain activities.
coingape.com暗号資産ウォレット大手MetaMaskが、AIエージェントを接続してオンチェーンの取引を自動化できる専用のAgent Walletを公開しました。利用者が支出上限や承認プロトコル、リスクプロファイルを事前に設定し、その範囲内でエージェントがスワップや予測市場への参加などを実行します。
2026年2月にエージェントウォレットを投入したCoinbaseに続く動きで、x402プロトコルを使ったエージェント決済は累計1億件・1,630万ドルを突破したとされます。Coinbaseがエージェントに独自の金融アイデンティティを与えるのに対し、MetaMaskは利用者がオンチェーン活動をエージェントへ委任する設計に重心を置いています。
AIコマースツール
NIQ、C360で6つのAI機能を発表──「信頼できる市場知能」をエージェンティックコマースへ
New capabilities help organizations operationalize trusted market intelligence across enterprise AI environments and the emerging world of agentic commerce.
sg.finance.yahoo.com調査大手NielsenIQ(NIQ)が、旗艦イベントC360で6つの新しいAI機能を発表しました。ブランドや小売が、信頼できる市場知能を企業ワークフローやAI環境のなかで活用できるようにする狙いで、エージェンティックコマースの到来を見据えた布石です。
注目は、ChatGPTやClaudeといった外部のAIと、ガバナンスの効いた形で連携する点です。AIが商品を選ぶ世界では、どのデータがAIに読まれ信頼されるかが流通量を左右します。NIQは「The Full View」を掲げ、自社の独自データをAIの意思決定層へ供給するインフラとしての立ち位置を狙っています。
Alibaba×Google、AIマーケティングで協業──PicCopilotがGoogle Adsと統合

Alibaba International has integrated its AI-powered creative platform PicCopilot with Google Ads for one-stop marketing creation and distribution.
www.asiae.co.krAlibaba International が、AIクリエイティブ基盤PicCopilotをGoogle Adsと統合しました。中小のEC事業者が、PicCopilotで作った高品質なマーケティングコンテンツをそのままGoogle Adsへ配信したり、Google Adsの中でPicCopilotのツールを使ったりできます。
目を引くのは制作スピードです。商品画像1枚から、これまで2〜3日かかっていた動画を2〜3分で8〜10本生成できるといいます。米国のPicCopilot利用者の約4割が初期段階の起業家とされ、限られた資源で複数チャネルのマーケティングを回す事業者の負担を、AIで肩代わりする方向が見えます。
会話型コマース
Musinsa、ChatGPT専用アプリを公開──検索から会話型ファッションコマースへ

Musinsa has launched a dedicated app on OpenAI's ChatGPT platform, moving to expand in the conversational AI commerce market.
www.digitaltoday.co.kr韓国のファッションEC最大手Musinsaが、OpenAIのChatGPT上に専用アプリを公開しました。3月にKakaoTalk内で提供を始めたAIスタイリング推薦に続く動きで、顧客接点を国内のメッセージング基盤からChatGPTの世界的な利用者基盤へ広げます。
中核にあるのは、同社が自社開発したMusinsa MCP(Model Context Protocol)です。正確なブランド名や商品名を入力しなくても、TPOや天候、価格帯、レビューといった文脈で推薦が返り、クリックするとMusinsaのオンラインストアへ直接遷移します。「明日仕事に着ていく服」「来月のヨーロッパ旅行に合う服」といった曖昧な問いに応える、検索中心から会話中心への転換です。
Zalando、OpenAIの広告パイロットに参加──英国でChatGPT内広告を試験

Zalando rejoint OpenAI comme partenaire de lancement d'un nouveau programme pilote publicitaire au Royaume-Uni.
www.ecommerce-nation.frドイツのファッションEC大手Zalandoが、OpenAIの広告パイロットの立ち上げパートナーとして、英国でChatGPT内の広告を試験する最初の事業者の一つになりました。会話型アシスタントを使う消費者の購買導線に、自社のファッション・ライフスタイル商品を組み込む狙いです。
検索エンジンだけが購買の入口ではなくなりつつあるなか、Zalandoは購買意図が芽生える瞬間に存在することを重視しています。17年分のファッションデータを土台にした自社の「Zalando Assistant」も並行して育て、外部の会話インターフェースから新規顧客を呼び込みつつ、自社プラットフォーム上の顧客接点を強化する両面戦略です。
クリエイターコマース
Flipkart、Metaと提携しインドのクリエイター主導コマースを拡大
Creators will be able to tag products from Flipkart and Myntra directly within Facebook posts and Reels, earning commissions on sales.
retail.economictimes.indiatimes.comインドEC大手Flipkart Groupが、Metaとアフィリエイトパートナーとして提携し、クリエイターがFacebookの投稿やReelsからFlipkartとMyntraの商品を直接タグ付けできるようにしました。消費者はクリエイターのコンテンツから商品を見つけ、FlipkartやMyntraで購入を完結できます。
まずFacebookで開始し、次の段階でInstagramへ拡大する計画です。FlipkartとBain & Companyの調査では、Gen Z消費者がインドのEC利用者の40〜45%を占め、増分注文のほぼ半分に寄与するとされます。マイクロ・ナノインフルエンサーまで開放することで、発見から購買までをSNSの内側に取り込む流れが、インドでも加速しています。
まとめ
本日のニュースは、エージェンティックコマースが「期待の段階」から「実装と課題が同時に表面化する段階」へ移ったことを示しています。MastercardのCEOが本人確認や責任の所在を問い、commercetoolsはAIの役割を企業運営の自律実行まで押し広げ、KlarnaやHSBC、Getnetは決済の側からエージェント時代の足場を固めにかかりました。Meeshoの75%という数字が示すように、AIが購買を駆動する現実はすでに一部の市場で起きています。推進と慎重論が交錯するこの局面で、誰が「信頼できる入口」を握るかが、次の勢力図を決めていきます。





