FanaticsがOpenAIのCodexで「Shop the Look」を構築、150万SKUから在庫のあるコーディネートを推薦し閲覧10%増
スポーツグッズEC大手FanaticsがOpenAIのCodexで作った在庫連動のコーディネート推薦の仕組みと成果、10%の数字の読み方、AIによる商品発見に備えるEC事業者への示唆を解説します。
この記事のポイント
- スポーツグッズEC大手のFanaticsが、OpenAIのCodexを使って在庫のある商品だけでコーディネートを組む「Shop the Look」を商品ページに導入し、推薦商品の閲覧が10%増えました。
- 150万SKU超と週1,000点以上の新商品を、撮影や手作業のスタイリングでは追いきれないという、大規模カタログ特有の商品発見の課題をAIで解いた事例です。
- チーム・選手・スタイル・在庫といった商品属性を構造化しておくことが、自社サイトの推薦にも、ChatGPTなど外部AIでの商品発見にも効く共通の土台になります。
150万SKUの中で迷う顧客と、30分を超える買い物

FanaticsはOpenAIのCodexを活用した「Shop the Look」機能で、150万点を超えるスポーツグッズの中から買い物客が商品を選べるよう支援しています。
www.cnbc.comユニフォーム、帽子、チームロゴ入りのストリートウェア、靴下。Fanaticsが常時扱う商品は150万SKU(在庫管理上の商品単位)を超えます。CNBCの報道によると、同社は世界の主要リーグやチームのほぼすべてと契約し、Fanatics Commerceだけで年間4,500万点以上を製造し、180を超える国の顧客に販売しています。
規模の拡大は、そのまま買い物のしにくさにつながりました。Fanatics Commerceの最高プロダクト責任者ジャスティン・ツァイ氏は、同社が運営する数百のサイトで、顧客が巨大なカタログの中から買えるものを探し続けている様子を繰り返し目にしてきたと語っています。買い物のセッションは平均で30分を超えることが珍しくなく、毎週1,000点以上の新商品が加わるたびに、その探索の負担は積み重なっていきました。
従来の解決策は、撮影やスタイリストによるコーディネート提案です。ただし準備に時間がかかり、優勝記念のTシャツや帽子のように試合直後に発売される商品には間に合いません。かといって、無作為に商品を並べればよいわけでもありません。ツァイ氏は、ドジャースのファンにジャイアンツの商品を勧めても誰も喜ばないと説明しています。チームと選手の一致が絶対条件という、スポーツグッズならではの制約がありました。
事業上の重みも大きい分野です。創業者でCEOのマイケル・ルービン氏はCNBCの番組で、コマース事業の今年の売上高が70億ドルを超える見込みだと述べました。トレーディングカードのToppsを含むコレクティブル事業は約55億ドルで、チームグッズは今もFanaticsの最大の収益源です。
Shop the Lookは何をしているのか
新機能は、商品ページごとにコーディネートを提案します。たとえば顧客が本物のチームユニフォームを検討していると、同じチームで、狙ったスタイルに合い、しかも在庫がある帽子や靴下、アクセサリーを組み合わせて見せます。
CNBCの説明では、OpenAIのCodexを使い、商品データとカタログデータを解析して相性のよい商品を見つけ、推薦を見直すツールを作ったとされています。Codexは本来、コードを書くAIエージェントです。今回の事例は、開発者向けのエージェントがマーチャンダイジング(品揃えと見せ方の設計)の仕組みづくりに使われた点で目を引きます。一方で、推薦を表示するたびにCodexが動いているのか、Codexで作った仕組みが別に動いているのかといった実行時の構成は、記事からは読み取れず未開示です。
この仕組みが前提にしているのは、3種類の条件を同時に満たすことです。
| 条件 | 中身 | 外れたときの問題 |
|---|---|---|
| チーム・選手の一致 | 検討中の商品と同じチーム、同じ選手の商品を選ぶ | ライバルチームの商品を勧めてしまう |
| スタイルの相性 | ユニフォームに合う帽子・靴下・小物など、狙った着こなしに沿って組む | ちぐはぐな組み合わせで信頼を損なう |
| 在庫の有無 | 今買える商品だけを提案する | 欲しくなった商品が買えず離脱する |
OpenAIで業界向けの市場開拓を率いるローズマリー・デアラゴン氏は、小売のパーソナライズを「昔からある問題」と表現しました。ECの普及で、購入履歴、閲覧地域、ログイン情報といった「顧客の指紋」は取れるようになりましたが、それでも提案が外れることは多かったといいます。
以前は、顧客に見せるのによさそうなものをつなぎ合わせようとしていました。AIを使えば、より決定論的なマッチングで、一段上のパーソナライズができます。
「決定論的」という言葉が要点です。似ている商品を確率的に並べるのではなく、チームが一致しているか、在庫があるか、といった外せない条件を守ったうえで組み合わせを作る、という発想です。ここで効くのは、モデルの賢さよりカタログの属性がどれだけきちんと整っているかです。チーム名、選手名、商品カテゴリ、スタイル、在庫状況が構造化されていなければ、どれほど高性能なAIでも正しいコーディネートは組めません。
導入後、推薦された商品の閲覧は10%増えました。ツァイ氏は、組み合わせを見ることで、顧客が検討中の商品に「より確信を持てる」ようになったとも述べています。
チェックアウトから商品発見へ、OpenAIの軸足の移動
この発表は、OpenAIのコマース戦略の流れの中で見ると意味がはっきりします。
OpenAIは2025年9月、ChatGPTの中で商品を買えるInstant Checkoutを発表しました。Etsyの出品者から始め、Shopifyの100万超の加盟店にも広げる計画でした。しかし2026年3月、OpenAIはInstant Checkoutを終え、小売各社がChatGPTの中に専用アプリを作り、購入は小売のサイトで完了させる方式へ切り替えるとCNBCが報じています。同じ月のOpenAIの発表は、Agentic Commerce Protocol(ACP、AIと加盟店をつなぐOpenAIの取引仕様)を商品発見にも広げ、比較や画像での探索を強化する内容でした。
Modern Retailの取材では、Etsyは販売量こそ伸びなかったものの、ChatGPTを商品発見の場としては評価していると答えています。つまり、AIが最初に価値を出しているのは決済ではなく「何を買うか決める」段階だというのが、この1年でOpenAIと小売の双方が得た共通認識です。経緯の詳細はInstant Checkoutの失敗から学ぶこととOpenAIのショッピング戦略の転換で解説しています。
Fanaticsの事例は、その「何を買うか決める」支援を、ChatGPTの外、小売の自社サイトの商品ページで実装したものです。OpenAIにとっては、チャットの外でも小売の商品発見に技術を広げる手段のひとつになっています。
10%という数字をどう読むか
成果として示された10%は、あくまで推薦商品の閲覧数の増加です。購入率、客単価、売上への影響は開示されていません。閲覧が増えても、ついで買いが増えたかどうかは別の問題です。
参考になるのが、McKinseyの2021年の分析です。パーソナライズは売上を10〜15%押し上げることが多く、企業ごとの幅は5〜25%で、業種と実行力によって変わるとしています。ただしこちらは売上の指標で、Fanaticsの閲覧の指標とは直接比べられません。Fanaticsの10%が売上の伸びにどれだけつながったかは、今後の開示を待つ必要があります。
AIコマース全体への期待にも留保がつきます。Instant Checkoutの終了について、GartnerのアナリストであるBob Hetu氏はCNBCに、OpenAIは取引を成立させることの難しさを過小評価していたと述べました。推薦のように「見せる」部分と、在庫引当や決済のように「確定させる」部分では、求められる正確さがまったく違います。デアラゴン氏自身も、人が選んだコーディネートや店頭での試着の役割は残ると認めています。
EC事業者が押さえておきたいこと
この事例から自社に持ち帰れる点は、大きく2つあります。
まず、推薦の質は商品属性の整い方で決まるという点です。Fanaticsにとっての「チーム」にあたる、外してはいけない属性は業種ごとにあります。アパレルならサイズ展開と色、家電なら対応規格、化粧品なら肌質や成分です。こうした属性が商品データに入っておらず、商品名や説明文の中に埋もれているなら、AIで推薦を作る前にその整理が必要です。
もうひとつは、同じデータが外部のAIでも効くという点です。ChatGPTやGoogleのAIは、ACPやUCPといった仕組みを通じて、価格や在庫を含む最新の商品情報を取り込む方向に進んでいます。自社サイトの推薦のために構造化した商品データは、そのままAI経由の商品発見への備えにもなります。撮影やスタイリングが追いつかない新商品ほど、データで説明できる状態にしておく価値が高まります。
規模の違いには注意が必要です。150万SKUと数百のサイトを持つFanaticsは、手作業では回らないからこそAIに投資する理由がはっきりしていました。商品数が数百規模なら、まず既存の手作業の提案を属性データとして記録していくところから始めるのが現実的です。
まとめ
FanaticsのShop the Lookは、生成AIの派手な対話機能ではなく、商品ページの「一緒に買うもの」という地味な場所で成果を出しました。その裏にあるのは、チーム、スタイル、在庫という条件を守れるだけのカタログデータです。
次に注目したいのは、閲覧の伸びが売上の数字として開示されるか、そして同じ仕組みがChatGPTなど自社サイトの外での商品発見にどう広がるかです。AIが商品を選ぶ時代の競争は、モデルの性能よりも、商品データの整い方で差がつき始めています。


