NestléがLazadaのAIアシスタント「LazzieChat」を東南アジアのキャンペーン基盤に:試行で新規購入者9割超、5市場へ拡大
NestléとLazadaが会話型AI「LazzieChat」を、コード探し・嗜好クイズ・バウチャーをつなぐ販促の基盤として5市場に広げました。AIアシスタントの成り立ちと発表値の読み方、マーケットプレイスに出店するブランドが確認したいデータの条件を解説します。
この記事のポイント
- NestléとLazadaは10月1日から2日にかけての「Nestlé x Lazada Regional Super Brand Day」で、LazadaのAIショッピングアシスタント「LazzieChat」を使った体験を、4月のNestlé Nutritionでの試行からNestléの幅広い商品群へ広げました。店舗で見つけたシークレットコードをLazzieChatに入力し、嗜好クイズに答えると、チェックアウトで使えるバウチャーが届く流れです
- 重要なのは、AIアシスタントが商品発見、顧客理解、購入をひとつの流れでつなぐ「キャンペーンの基盤」として使われ始めたことです。4月の試行では6万件超の対話があり、購入者の9割超がNestléの新規顧客だったとブランド側は発表しています
- ただし数字はブランドとプラットフォームの自己申告で、バウチャーの効果と切り分けた増分効果は示されていません。クイズで集めた回答をNestléがどこまで受け取れるかも未開示で、AIの体験そのものはLazadaの持ち物です。マーケットプレイスに出店するブランドは、AIの枠を借りる条件を確認する段階に来ています
4月の試行から、Nestléの商品群を横断するキャンペーンへ

NestléとLazadaが、AIによる商品発見、買い物客の理解、チェックアウトを5市場のECキャンペーンでつなぎます。
www.contentgrip.comLazadaのアプリを開き、Nestléの公式ストアを眺めていると、キャンペーンのシークレットコードが見つかります。それをAIアシスタントのLazzieChatに入力すると「サプライズ」が開き、好みや買い方を尋ねるクイズが始まります。答え終わると、そのままLazadaのチェックアウトで使えるバウチャーが手に入ります。
これが、NestléとLazadaが10月に実施した「Nestlé x Lazada Regional Super Brand Day」の中心にある体験です。Marketing-Interactiveに掲載された両社の発表によると、開催は10月1日がマレーシア、シンガポール、インドネシア、10月2日がベトナムとタイです。テーマは「Goodness at the heart of every home」で、栄養食品に限らず食料品を含むNestléの幅広い商品群が対象になりました。
出発点は2026年4月の試行です。Nestlé Nutritionが、Lazadaの取り組みの一環としてLazzieChatを使った「Future, Imagined」という体験を実施しました。子どもの将来を親に思い描いてもらう対話型の企画で、両社はこの反応をもとに規模を広げたと説明しています。
ひとつ細かな点があります。キャンペーン全体は5市場で行われますが、発表文でLazzieChatの体験の対象として挙げられているのはマレーシア、シンガポール、インドネシア、タイの4市場で、ベトナムは含まれていません。元記事のContentGripは5市場への拡大と書いており、市場ごとの実施範囲は発表からは確定できません。
試行の数字:6万件の対話と、新規購入者9割超
4月の試行について、両社が示した数字は2つです。
| 指標 | 数値 | 補足 |
|---|---|---|
| LazzieChatとの自発的な対話 | 6万件超 | 2026年4月の「Future, Imagined」期間中 |
| LazzieChat経由の購入者に占めるNestlé新規顧客 | 9割超 | 購入者数・転換率は未開示 |
注目すべきは2つ目です。LazzieChatに導かれて購入した人の9割超が、Nestléにとって初めての顧客だったとされています。対話型の体験が、既存ファンの囲い込みではなく、新しい購入者の獲得に効いたという主張です。
ただし、この数字には分母がありません。購入者が何人だったのか、6万件の対話のうちどれだけが購入に至ったのかは開示されていません。「Nestléにとって新規」が、Lazada上のNestléの店舗で初めて買った人を指すのか、Nestlé製品そのものを初めて買った人を指すのかも、発表からは読み取れません。
LazzieChatはどう育ってきたか
LazzieChatは、今回のために作られたAIではありません。Lazadaが3年かけて販促の仕組みに組み込んできたものです。
| 時期 | 出来事 | Lazadaが示した数字 |
|---|---|---|
| 2023年5月 | LazzieChat公開(Azure OpenAI ServiceのChatGPT技術、3市場で英語版) | なし |
| 2024年 | 販促企画「LazzieChat Hunt」開始、でコード探しとクーポンを組み合わせる | なし |
| 2025年9月 | 9.9セールで「LazzieChat Challenge」 | 同発表で示された6.6セールの結果:注文数43%増、流通総額168%増(前回の大型セール比) |
| 2025年10月 | Qwen基盤の買い物エージェントAI Lazzieを含む5つのAIエージェントを発表 | 試行段階で注文42%増、対応商品230万点超 |
| 2026年4月 | 誕生祭セールでLazzie内に「SmartStack」 | 1日約250万人が利用、約10万人が購入、AI経由の流通総額約300万ドル |
| 2026年10月 | Nestlé x Lazada Regional Super Brand Dayでコード、クイズ、バウチャーを統合 | 未公表 |
始まりは2023年5月です。Microsoftの発表によると、LazzieChatはAzure OpenAI ServiceのChatGPT技術を使い、シンガポール、フィリピン、インドネシアで英語版として提供されました。当初は質問に答えて商品を示す「相談相手」でした。
性格が変わったのは2024年です。Lazadaは「LazzieChat Hunt」と呼ぶ販促を始め、利用者がシークレットコードを探してLazzieに話しかけると、割引コードやクーポンが手に入る仕掛けを作りました。2025年9月のLazadaの発表は、Dyson、Eucerin、Lego、P&Gと並んでNestléがすでにこの仕掛けを大型セールで使っていたと記しています。今回の「コードを見つけてAIに入力する」流れは、この延長線上にあります。
2025年10月には、Lazadaは5つのAIエージェントを打ち出しました。同社の発表では、買い物を支援するAI Lazzieは親会社Alibaba GroupのLLM「Qwen」を基盤とし、230万点超の商品に対応するとされています。返金、物流、出品、広告の各エージェントと並べ、CTOのHoward Wang氏は「エージェンティックコマースの新しい時代」への一歩と位置づけました。
直近では、2026年4月の誕生祭セールの結果が出ています。Lazadaの発表によると、Lazzieの中に設けた「SmartStack」という機能を1日あたり約250万人が訪れ、Lazzieと対話した後に約10万人が購入し、AIが関与した流通総額は約300万ドルに達しました。対話の中でバウチャーを受け取れる仕組みが、ここでも集客の柱になっています。
AIアシスタントが「キャンペーンの基盤」になるということ
今回の発表で読み取るべきは、AIの性能ではなく使われ方です。
これまでのブランドの販促は、広告、商品ページ、コンテンツ、クーポンを別々に設計し、それぞれの成果を後からつなぎ合わせるのが一般的でした。Nestléの体験では、店舗での発見、AIとの対話、嗜好の聞き取り、バウチャーによる購入が一本の流れに収まっています。ContentGripはこれを、AIに素材を作らせる使い方ではなく、ばらばらだった販促の機能を「束ねる」使い方だと評しました。
中でも意味が大きいのはクイズです。両社の発表は、クイズが買い物客の好みや行動を尋ね、何を求め、何が選択に影響するかについての洞察をNestléにもたらすと説明しています。顧客が自分から申告する情報は「ゼロパーティデータ」と呼ばれ、閲覧履歴から推し量るデータよりも意図がはっきりしています。
ブランドにとってマーケットプレイスは、売上は立つのに顧客の顔が見えにくい場所でした。購入データの多くはプラットフォーム側にあり、ブランドが受け取れる情報は限られます。AIとの対話にクイズを挟むことで、その場で顧客に直接尋ね、答えた人にバウチャーで購入を促すという、聞くことと売ることを同時に行う設計が成り立ちます。
この形は、キャンペーンの企画の仕方も変えます。AIが何を勧め、何を尋ね、どの時点でどの特典を出し、どこで会話を終えるのか。ContentGripは、会話型コマースでは販促の設計がプロダクト設計に近づくと指摘しています。クリエイティブの出来よりも、対話の手順と購入への導線の作り込みが成果を左右するということです。
一方で、仕掛けを増やせば体験が良くなるわけではありません。コードを探し、AIに入力し、クイズに答えるという手順は、それぞれが離脱の原因にもなります。手間を上回る特典があって初めて成り立つ設計であり、バウチャーなしで同じ反応が得られるかは別の問題です。
誰のAIで、誰のデータか
この取り組みには、ブランドが見落としやすい構造があります。
発表文は、LazzieChatの体験がLazadaが開発・運営する技術の上で動いていると明記しています。会話の設計の枠組み、モデル、対話ログ、購入データはLazadaの側にあります。Nestléは、Lazadaが用意したAIの枠をキャンペーンのために借りている立場です。
クイズの回答がNestléにどの粒度で渡るのかは開示されていません。個人単位の回答なのか、集計済みのレポートなのか。Lazadaの外にある自社の会員基盤や広告配信に活用できるのか。こうした条件次第で、「ゼロパーティデータの取得」という言葉の重みは大きく変わります。
同じ仕組みはP&GやDysonなど他のブランドにも開かれています。LazzieChatで成果を出すノウハウは、Lazadaの中に蓄積されていきます。東南アジアでは、ShopeeもChatGPTとの接続や自社開発のEC特化LLM「Compass」でAIへの投資を進めています。プラットフォームが競うのはAIの有無ではなく、購買の流れのどこまでを自社のAIで束ねられるかです。ブランドにとっては、その流れの中で自社の居場所をどう確保するかが問われます。
東南アジアという土壌
東南アジアは、こうした試みが受け入れられやすい市場です。Google、Temasek、Bain & Companyが2025年11月に公表したe-Conomy SEA 2025によると、域内のAIへの関心は世界平均の3倍で、利用者の4人に3人がAIツールはコンテンツの発見や作業を楽にしたと答えています。EC流通総額は2025年に1,850億ドルに達する見通しです。
留保:発表値をどう読むか
今回の数字を評価するには、いくつかの限界を踏まえる必要があります。
まず、情報源の性格です。Marketing-Interactiveの記事は末尾に「NestléとLazadaの提供」と記された企業提供の記事で、独立した報道ではありません。ContentGripも、試行の数字はブランドの自己申告であり、増分効果を示す独立した証拠ではなく方向性を示すものとして扱うべきだと書いています。
次に、因果の切り分けです。新規購入者が9割を超えたのは、AIとの対話が効いたからなのか、バウチャーという値引きが効いたからなのか。発表はこの2つを分けていません。AI経由の流通総額約300万ドルについても、セール期間中に対話した人が購入した額であり、AIがなければ生まれなかった売上という意味ではありません。
最後に、バウチャーの金額、対象商品、クイズの設問数、参加者数といった条件は、いずれも未開示です。費用対効果を他の販促と比べる材料はまだ揃っていません。
マーケットプレイスに出店するブランドが確認したいこと
マーケットプレイスがAIアシスタントを販促の枠として開放し始めたことは、出店するブランドにとって新しい選択肢です。ただし、借りる前に確認したい点ははっきりしています。
ひとつは、対話とクイズで得られるデータの受け取り範囲と、その利用条件です。もうひとつは、成果の測り方です。対話件数や参加者数ではなく、バウチャーだけを配った場合と比べた増分を測れるかどうか。この2点をプラットフォームと詰められるかで、AIの枠が「話題づくり」で終わるか、顧客理解の手段になるかが分かれます。
日本のモールで同じようにAIの枠がブランドに開かれる場面に備えるなら、何を聞き、どんなデータを受け取りたいのかを先に決めておくことが、交渉の出発点になります。
まとめ
NestléとLazadaの取り組みは、AIアシスタントを単独の機能ではなく、発見から顧客理解、購入までをつなぐ販促の基盤として使う事例です。LazzieChatは2023年の相談型チャットから、コード探しとバウチャーを組み合わせた販促の仕掛けを経て、ブランドがキャンペーンを載せる場所へと役割を広げてきました。
次に注目すべきは、10月のキャンペーンの結果がどの指標で公表されるかです。対話件数だけでなく、購入への転換や、クイズで得た知見を両社がどう使ったかが語られれば、AIの枠を借りることの価値がもう一段はっきりします。


