2026年7月1日

Skyscannerが会話型「Explore with AI」とロードトリップ機能を投入 メタサーチが旅行の発見〜計画をAIエージェント化

この記事のポイント

  1. Skyscannerが夏の大型アップデートで、自然言語で行き先を探す「Explore with AI」とドライブ旅程を自動生成するロードトリップ機能をベータ投入し、DROPS価格アラート、Flight Tracker、宿泊のStays刷新も同時に発表しました
  2. メタサーチ最大手が「検索して比較する場所」から「発見から計画までを対話で肩代わりするAI」へと軸足を移す動きであり、2月のChatGPTアプリ連携と合わせて旅行の入り口そのものを取りにいく戦略が見えてきます
  3. 予約・取引を担う事業者にとっては、旅程を組み立てるAIに商品在庫と価格をどう読ませ、その提案の先で自社が予約先として選ばれるかが問われる局面に入っています

Skyscannerが投入した二つのAIツール

2026年6月末、フライト比較で世界最大級のメタサーチであるSkyscannerが、夏商戦に向けたプロダクトアップデートをまとめて公表しました。中心にあるのは、AIを使った二つの新機能です。どちらもまずは英語圏の市場でベータ提供が始まっています。

一つ目が「Explore with AI」です。従来のように行き先や日付を入力する代わりに、たとえば「12月に日本へ行く安いフライト」といった話し言葉で検索すると、AIが条件を汲み取って行き先候補を提案します。画面にはフライトの価格や所要時間、現地の天気、そして「その土地の雰囲気(destination vibes)」といった要素が並び、AIが添えるコメントも表示されます。「9月は12月よりだいたい24%安い」といった具合に、判断材料を言葉で補ってくれるのが特徴です。Skyscannerによれば、初期テストでは利用者の60%がExplore with AI経由でフライト候補の閲覧まで進んだとされています。

二つ目がロードトリップ機能です。出発地と日程、そして旅のスタイルを指定すると、AIがドライブ旅程を自動で組み立てます。用意されているスタイルは「絶景ルート」「最速ルート」「文化探訪」「冒険」「のんびり滞在」の五種類で、選んだ方向性に沿って途中の立ち寄り先や見どころ、それに適したレンタカーの選択肢まで提示します。単なる経路案内ではなく、旅の性格ごとに体験を設計してみせる点に踏み込んでいます。

CEOのBryan Batista氏は、旅行者を取り巻く環境が複雑さを増すなかで、計画から予約までを自信を持って進められる道具づくりに注力していると述べています。発見から計画まで、旅のあらゆる段階をAIでどれだけ簡単で直感的にできるかを試している、という位置づけです。

既存機能もまとめて底上げした

今回のアップデートは新機能だけにとどまりません。Skyscannerは既存の主力機能にも手を入れ、夏のピークに向けて全体の使い勝手を引き上げています。

価格アラートの「DROPS」は、直近7日間で20%以上値下がりしたフライトを拾い上げる機能です。これを拡張し、1,000億件規模の価格をスキャンすることで、1日あたり最大822%も多くの掘り出し物を提示できるようになったとされています。フライト状況を追う「Flight Tracker」は、搭乗ゲートやターミナル、預け荷物の情報まで表示するよう強化されました。宿泊予約の基盤は「Stays」へと名称を改め、取り扱い物件を350万件から500万件超へと拡大しています。

機能アップデート内容
Explore with AI自然言語で行き先を探す発見エンジン。価格・天気・雰囲気を横並び比較し、AIコメントを付与
ロードトリップ機能五つの旅スタイルからドライブ旅程を自動生成し、立ち寄り先とレンタカーを提示
DROPS1,000億件の価格をスキャンし、1日最大822%多い値下がり案件を通知
Flight Trackerゲート・ターミナル・預け荷物の情報を追加
Stays宿泊基盤を改称し、物件数を350万から500万超へ拡大

こうして並べると、Skyscannerが発見(Explore with AI)、計画(ロードトリップ)、予約前の意思決定(DROPS、Stays)、そして旅行中(Flight Tracker)という一連の流れを、それぞれ強化していることが見えてきます。個別機能の改善の集合というより、旅の全行程を面で押さえにいく設計だと読み取れます。

「検索する場所」から「計画を任せる相手」へ

今回の発表が持つ意味は、Skyscanner単体の機能追加という枠を超えています。メタサーチという業態そのものの立ち位置が、静かに変わりつつあるのです。

メタサーチはこれまで、利用者が条件を入力し、各社の価格を横並びで比べる「比較の場所」でした。旅行者が主語で、サービスは選択肢を並べる役に徹していました。ところがExplore with AIやロードトリップ機能では、AIが会話から意図を汲み、行き先や旅程というより上流の意思決定そのものを肩代わりします。利用者はまだ何も決めていない段階から相談でき、AIが計画の骨格を先に描く。旅行者の役割は「検索する」から「提案を吟味する」へと移っていきます。

この方向性は、2026年2月に打ち出したChatGPTアプリ連携とも地続きです。SkyscannerはOpenAIのモデルを使ったアプリをChatGPT上で公開し、「ニューヨークへの12月の最安フライトを探して」といった会話からフライト候補を提示できるようにしました。これは2025年1月のOpenAIとの提携、そしてAIエージェントが自律的にフライトを閲覧・検索するChatGPT Operatorの試験運用の延長線上にあります。自社サイトでも、レンタカーやホテルのチャットボットをAIで動かし、対話で意思決定を進める体験を広げています。

ここで押さえておきたいのは、旅行の発見と計画がAIエージェントの領域に移るという流れは、Skyscannerだけの動きではないという点です。旅行体験予約のHolibobが会話型の予約プラットフォームを立ち上げ、Visaが厳選体験付きの旅行プラットフォームを投入するなど、取引の入り口をAIとの対話へ移す試みが業界全体で相次いでいます。「旅行の次のOSは検索の上には築かれない」という議論が業界メディアで交わされているのも、この地殻変動を映したものです。旅行のエージェンティックコマース、つまりAIが人に代わって探索から予約・決済までを実行する形が、実装の段階に入りつつあります。

予約・取引を担う事業者への示唆

では、フライトやホテル、レンタカー、体験を実際に販売する側の事業者は、この動きをどう受け止めればよいのでしょうか。旅行に限らず、取引の代行がAIへ移っていく局面に共通する論点として整理できます。

第一に、AIに読み解かれる前提で在庫と価格を整えることが出発点になります。Explore with AIは価格や所要時間だけでなく、天気や雰囲気といった文脈まで束ねて比較材料に変えていました。AIが提案の質を上げるほど、構造化された正確なデータを供給できる事業者ほど選ばれやすくなります。逆に、在庫や料金が機械可読な形で開示されていなければ、AIの比較テーブルにそもそも載らないという事態が起こりえます。

第二に、AIが計画を組み立てた「その先で予約先として選ばれるか」という問いが重くなります。旅行者がAIとの対話で行き先や旅程を固めた後、実際の予約や決済がどこで完結するかは別の勝負です。Skyscannerが自らその予約導線まで握ろうとしている以上、個々の販売事業者は、AIの提案の下流で自社が選ばれる理由を用意しておく必要があります。価格の競争力、在庫のリアルタイム性、そして予約後の体験の確実さが、その決め手になります。

第三に、レンタカーやアクティビティのように「旅程に紐づいて需要が生まれる商品」を扱う事業者には、追い風と難しさが同居します。ロードトリップ機能がルートに沿って立ち寄り先やレンタカーを提示するように、AIは文脈に応じて関連商品を差し込みます。そこに載れば新しい露出を得られますが、載る条件はAI側の設計に委ねられます。自社の商品がどの文脈で呼び出されうるかを見極め、データと接続を整えておく作業が現実的な備えになります。

こうした示唆は、旅行だけの話ではありません。購買や予約、決済をAIが代行するという構図は、物販でも旅行でも本質的に同じです。取引の入り口が対話へ移るとき、選ばれる側に回るための準備は、業種を問わず共通しています。

まとめ

Skyscannerの今回のアップデートは、メタサーチが「比較する場所」から「計画を任せる相手」へと役割を広げる転換点として読めます。発見から計画、予約前の判断、旅行中までを一連で押さえにいく設計は、旅行のエージェンティックコマースが実装段階に入ったことを示しています。ベータ提供はまだ英語圏に限られ、AIの提案精度や予約導線の完成度はこれからの検証が待たれます。予約や取引を担う事業者にとっては、AIに読み解かれるデータを整え、その提案の先で選ばれる理由を用意できるかが、次の数年の競争を左右していきそうです。