2026年6月12日

AIに購入完了まで任せたい消費者は13.9%──Checkout.comとEcommpayの2調査が示すエージェンティックコマースの信頼ギャップ

この記事のポイント

  1. 2026年6月11日、Checkout.comとEcommpayのエージェンティックコマース調査が相次いで報じられた。消費者の73.4%が「エージェント購買は一般化する」と予想する一方、購入完了まで任せたい人は13.9%にとどまり、期待と委任の間に深い溝がある
  2. Checkout.com調査では加盟店の72%が「消費者の移行は自分たちの準備より速い」と認識。消費者が承認なしで許容する支出は平均£177で加盟店想定の£200を下回り、支出上限・即時取り消し・簡単なキャンセルが委任の絶対条件に挙がった
  3. Ecommpay調査は信頼が崩れる地点を「決済の瞬間」と特定。価格比較などの購買前AI利用は半数超に浸透済みだが、50.1%はカード情報を渡したくない。前日に発表されたVisaやMastercardの決済基盤は、まさにこのギャップを埋める設計になっている

同じ日に、2つの調査が同じ溝を指し示した

2026年6月11日、エージェンティックコマース(AIエージェントが人に代わって商品を探し、購入まで行う商取引)をめぐる2つの調査が同じ日に報じられました。ひとつは決済企業Checkout.comのレポート「Agentic Commerce 2026: The State of Consumer Demand and Merchant Readiness」を伝えたHome of Direct Commerceの記事。もうひとつは決済サービスプロバイダーEcommpayによる欧州5カ国調査を伝えたSecurityBrief UKの記事です。

別々の会社が、別々の市場で、別々の手法で調べた結果が、ほぼ同じ構図を描き出しています。消費者はAIによる買い物が当たり前になると予想し、すでに購買の前段では使い始めている。しかしお金が動く瞬間になると、信頼が急激に落ちる。そして加盟店側は、消費者が求める制御の中身を正確には読めていない。この記事では2つの調査を数字で突き合わせ、どこまで進んでいて、どこで止まっているのかを立体的に整理します。

消費者は加盟店の想定より「慎重で、速い」──Checkout.com調査

Checkout.comが6市場の消費者と英米の加盟店を調べた新レポートで最も目を引くのは、移行速度をめぐる認識です。消費者の33%は、1年以内に自分の購買の10%以上がAI駆動になると予想しています。加盟店側はさらに切迫していて、72%が「消費者は大半の加盟店の準備より速くエージェント主導の買い物に移行する」と答えました。供給側が需要に追い越されるという自覚が、業界の中にすでにあるわけです。

ただし需要は無条件ではありません。同じ調査で、消費者の24%は「AIへの購買委任は決してしない」と答え、27%は「AIショッピングエージェントを運営する組織として信頼できるところはない」としています。期待ギャップの内側に、もうひとつの信頼ギャップが入れ子になっている構図です。

金額の感覚にもずれがあります。消費者が追加承認なしでAIエージェントに許す支出は、6市場平均で1回あたり£177(約3.5万円)。一方、英米の加盟店は£200まで許容されると想定していました。差は1割強ですが、方向が重要です。加盟店は消費者の財布の紐を、実際より緩く見積もっていることになります。

では何があれば消費者は財布を渡すのか。回答の上位は支出上限(30%)、即時の権限取り消し(29%)、簡単なキャンセル(28%)でした。この点では加盟店側の認識も一致していて、75%が「リアルタイムで権限を取り消せる仕組みが普及の鍵になる」と答えています。委任の動機は時間の節約(25%)と「より良いディールを逃さないため」(20%)。利便性が引っ張り、制御が背中を押す関係です。

カテゴリ別に見ると、ずれはむしろ広がります。消費者が委任しやすいのは食料品(41%)と日用品(31%)で、リスクが低く繰り返しの多い買い物から始まると考えている。ところが金融サービスは15%で最下位です。加盟店は逆に、複雑な金融商品のような高関与の意思決定からエージェンティックコマースが定着すると予想していました。需要と供給で普及の起点の読みが正反対になっている点は、参入領域を考えるうえで見逃せません。

ブランドへの影響も数字が出ています。57%の消費者は、AIエージェントがより良い価格を見つけたならブランドの乗り換えを許容すると回答しました。現時点でAIエージェントが関与する取引は英米加盟店の答えで全体の3%にすぎませんが、89%の加盟店がすでに準備を進めています。Checkout.comのCMO、Rory O'Neill氏は調査の含意を次のように要約しました。

採用は加速しているが、それを支えるインフラはまだ発展途上だ。消費者は、AIエージェントがセキュリティ、返金、権限、支出上限という明確な制御の中で動くという確信を必要としている。その基盤が整うまで、信頼は普及の最大の障壁であり続ける

カード情報を渡したくない50.1%──Ecommpayが特定した「決済の瞬間」の壁

Checkout.comの調査が期待ギャップの全体像を描いたとすれば、Ecommpayの白書は信頼が崩れる地点をピンポイントで特定しています。英国・フランス・ドイツ・スペイン・イタリアの消費者1,750人への調査と加盟店インタビューによれば、エージェントを使ったオンライン購買を知っている消費者は59.2%、一般化すると予想する人は73.4%に達します。認知も期待も十分に高い。それでも、承認を前提にエージェントへ購入完了まで任せたい人は13.9%しかいません。

落差の理由は利用実態を見ると明確です。価格比較にAIエージェントを使う人は53.3%、割引やより良いディールの発見に使う人は47.1%と、購買前の工程ではすでに過半数前後まで浸透しています。17.8%は商品をカゴに入れるところまでエージェントに任せ、決済だけは自分で行う使い方をしている。そして50.1%は、AIエージェントにカード情報を渡したくないと答えました。探す・比べるは任せても、支払う瞬間だけは手放さない。これがEcommpay調査の核心です。

Head of Strategic SalesのRoy Blokker氏は、この構図を次のように言い切ります。

エージェンティックコマース普及の最大の障壁は、消費者の認知不足でも加盟店の関心不足でもない。決済時点の信頼だ

突破口の手がかりも数字に表れています。24.2%の消費者は、£50〜100(€50〜100)の範囲ならエージェントによる購入完了を許容すると答えました。無制限の委任は拒むが、上限つきの少額なら任せてもよい。Checkout.com調査の「支出上限が絶対条件」という結果と、きれいに重なる発見です。

加盟店側のインタビューからは、消費者とは別種の不安が浮かびました。自律的なエージェントが関与した取引で問題が起きたとき、責任は誰が負うのか。チャージバック(カード決済の取り消し請求)や紛争はどう処理されるのか。通常のECでも紛争処理は重い負担であり、購入の指示系統にAIが挟まることで「誰が権限を与えたのか」の立証が一段難しくなります。白書はさらに、UK Payments Associationの多様性・包摂ワーキンググループの調査を引き、脆弱な消費者の42%がAIツールやデジタルツールの不具合で銀行・決済タスクを完了できなかった経験を持つと指摘しました。エージェント化が進むほど、デジタル操作に不慣れな層を排除しない設計が規制・評判の両面で問われることになります。

2つの調査を並べると見える共通の構図

項目Checkout.com調査Ecommpay調査
調査対象6市場の消費者、英米の加盟店欧州5カ国(英仏独西伊)の消費者1,750人、加盟店インタビュー
普及への期待消費者の33%が1年以内に購買の10%以上がAI駆動になると予想73.4%がエージェント購買の一般化を予想(認知は59.2%)
委任への抵抗24%は「決して委任しない」、27%は「信頼できる運営組織はない」50.1%はカード情報を渡したくない。購入完了まで望むのは13.9%
承認なしで許容する金額平均£177/回(加盟店の想定は£200)24.2%が£50〜100/€50〜100の範囲なら委任を許容
普及の条件・懸念支出上限30%、即時取り消し29%、簡単なキャンセル28%が絶対条件決済時点の信頼が最大の壁。加盟店は責任所在とチャージバック処理を懸念

市場も手法も異なる2つの調査が、3つの点で一致しています。第一に、認知と期待は先行している。第二に、信頼は決済の瞬間で止まり、無条件の委任を受け入れる消費者は少数派にとどまる。第三に、上限つき・取り消し可能という条件さえ満たせば委任してもよいという層が一定規模で存在する。普及を阻んでいるのは技術への拒絶ではなく、制御の設計が消費者にまだ提示されていないことだと読めます。

前日にはVisaとMastercardが動いた──需要側の調査と供給側の実装が噛み合い始めた

タイミングの符合にも意味があります。この2調査が報じられる前日の6月10日、VisaはOpenAIとの戦略提携を発表し、支出上限・加盟店カテゴリ制限・承認要件を組み込んだエージェント決済の提供を打ち出しました。同じ日にMastercardも、権限管理をブロックチェーン上に記録する機械間決済基盤「Agent Pay for Machines」を発表しています。消費者が調査で求めた「支出上限」「即時取り消し」は、決済ネットワークがまさに前日に実装を約束した機能そのものです。

2026年に入ってから、ForresterMcKinsey、Sopra Steriaなど複数の調査会社・コンサルティングファームが、表現こそ違えど同じ信頼ギャップの構図を報告してきました。今回の2調査はその系譜に連なるものですが、許容金額(£177、£50〜100)や絶対条件の優先順位といった、設計に直接落とせる粒度の数字を提示した点で一歩具体的です。需要側の条件が数値で見え、供給側のインフラが出揃い始めた。両者が噛み合うかどうかが、今後1年の焦点になります。

まとめ

消費者はAIに買い物を任せる未来を疑っていません。疑っているのは、財布を渡したあとに自分が制御を取り戻せるかどうかです。Checkout.comとEcommpayの2調査は、その境界線が「決済の瞬間」にあり、越えるための条件が支出上限と即時取り消しという具体的な機能であることを数字で示しました。EC事業者にとっての問いは「消費者はAIに任せるのか」から、「上限つきの委任を受け止める体験を自社がいつ用意できるか」に変わっています。調査が描いた溝は深いものの、橋を架ける場所はもう特定されています。