Google「Universal Cart」が米国で提供開始、5月の発表から変わった点と自社商品を載せる条件
GoogleのUniversal Cartが米国の検索とGeminiアプリで提供開始。5月のI/O発表との違い、UCPのCart APIとMerchant Centerの統合ハブなど、EC事業者が自社商品をカートに載せる条件を解説します。
この記事のポイント
- Googleは2026年10月15日、Universal Cartを米国のGoogle検索とGeminiアプリで提供開始しました。複数店舗の商品の保存、値下げと再入荷の通知、カード特典を踏まえた支払いの提案とプロモコードの表示、UCPによるチェックアウトの4機能です
- 5月のI/O発表と比べると、YouTube・Gmailへの展開、互換性チェック、AP2には今回触れていません。Googleはカートを「代わりに買うエージェント」ではなく「買い物客が主導する道具」と位置づけ直しました
- 自社商品をこのカートで買える状態にするには、UCPのCart APIなどを先に実装し、10月に米国で始まったMerchant Centerの統合ハブに申し込んでGoogleに選ばれる必要があります。選抜の基準と期間は未開示です
発表から5か月、届いたカートは「エージェント」を名乗らなかった

新しいショッピングツールは、米国のGoogle検索とGeminiアプリで利用できます。
techcrunch.com2026年10月15日、Googleは公式ブログで、Universal Cartを米国のGoogle検索とGeminiアプリで提供開始したと発表しました。5月19日のGoogle I/O 2026で予告した機能で、当時「夏から」としていた提供時期は、ホリデー商戦の入り口にあたる10月半ばにずれ込んだ形です。TechCrunchは、AI Modeでの対話的な商品探しや「Let Google Call」に続く、Googleの買い物機能の最新の一手と位置づけています。
2本の公式ブログを読み比べて目を引くのは、機能の数よりも言葉の選び方です。5月の発表で広告・コマース担当VPのVidhya Srinivasan氏は、Universal Cartを、UCPと決済基盤を「ひとつにまとめる次の一歩」と呼び、エージェンティックコマースの集大成として紹介しました。
今回のブログを書いたのは、消費者向けショッピングのプロダクト管理を担うSuresh Ganapathy氏です。同氏はGoogleの取り組みを、利用者の代わりに動くエージェントの能力を広げる方向と、買い物客に自信と主導権を与える実用的な道具をつくる方向の2つに分け、Universal Cartは後者のために作ったと書いています。今回のブログには、エージェントの支払いを安全にする決済プロトコルAP2も、条件を満たしたら自動で買う話も出てきません。期待値を「AIが買ってくれる」から「AIが買い物を整理してくれる」へ一段下げてから出してきた、と読むのが自然です。
5月の発表と10月の提供開始を並べる
何が実装され、何が言及から消えたのか。2本の公式ブログと関連報道を項目ごとに並べると次のとおりです。
| 項目 | 2026年5月19日(I/O発表) | 2026年10月15日(米国で提供開始) |
|---|---|---|
| 提供時期 | 米国で夏から順次 | 10月15日に米国で提供開始 |
| 提供面 | 検索とGeminiアプリ、その後YouTubeとGmail | 検索(AI Modeを含む)とGeminiアプリ。YouTubeとGmailには言及なし |
| 価格と在庫 | 値下げの検出、価格履歴、再入荷の通知 | 値下げと再入荷の通知 |
| 互換性チェック | 自作PCの例で非互換を指摘し代替を提案 | 発表に記載なし |
| 支払いの提案 | カード特典、ロイヤルティ情報、加盟店のオファーを考慮 | カード特典を踏まえた支払い方法の提案と、プロモコードの表示 |
| チェックアウト | Google Pay、または加盟店サイトへ移して購入 | 同じ2経路。注文確認とサポートは加盟店から |
| 対応小売 | Nike、Sephora、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfair、Shopify加盟店(Fenty、Steve Madden) | Nike、Sephora、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfair、多くのShopify加盟店 |
| 米国外 | UCPのチェックアウトをカナダと豪州へ数か月以内、のちに英国 | Merchant Centerの統合ハブはカナダと豪州が来年。英国は時期の記載なし |
| AP2 | Gemini Sparkから数か月以内に導入 | 今回の発表に言及なし |
最も大きな差は提供面です。5月は「YouTubeとGmailが続く」と明記していましたが、今回のブログは検索とGeminiアプリにしか触れていません。I/Oで示した「YouTubeの動画やGmailのニュースレターで見た商品も同じカートへ」という体験は、現時点では米国の検索とGeminiの中に限られます。YouTubeとGmailへの展開時期は未開示です。
I/Oのデモで話題になった自作PCパーツの互換性チェックも、今回の4機能には入っていません。動いているのか後回しになったのかは発表から判断できず、扱いは未開示です。支払いの提案も、5月は「カード特典、ロイヤルティ情報、加盟店のオファー」を挙げていたのに対し、今回は「カード特典」と「プロモコード」に絞られました。
変わらなかった部分もあります。対応小売のNike、Sephora、Target、Ulta Beauty、Walmart、Wayfairは5月と同じ顔ぶれで、Shopifyの加盟店は「FentyやSteve Maddenなど」から「多くのShopify加盟店」という表現に変わりました。どちらの経路で買っても販売者(seller of record)は加盟店のままで、注文確認とカスタマーサポートも加盟店から届くことが、今回あらためて明記されています。
4つの機能を売る側から読み直す
Googleが挙げた4つの機能は、売る側から読むと意味が少しずつ変わります。
まず、複数の店舗の商品をひとつのカートに保存できる機能です。公式ブログの例では、検索のAI ModeでSteve Maddenのハンドバッグを入れ、後日GeminiアプリでQuinceのセーターとUlta Beautyのリップグロスを足すと、すべてが同じカートに残ります。ブラウザのタブやスクリーンショットでしていた比較を、Googleが自社の画面の中に取り込むということです。比較の場は、買い物客が加盟店のサイトに来る前に移ります。
値下げと再入荷の通知は、600億件超の商品リスティングを常に更新しているShopping Graphの上で動きます。カートに入れた商品の価格や在庫が変われば、Googleが買い物客に知らせる仕組みです。裏返せば、Merchant Centerに出している価格と在庫の情報が買い物客への通知の材料になります。値下げをすればGoogleから通知が届く可能性がある一方、フィードの更新が遅れれば、その機会を逃します。
支払いとプロモコードの機能は、Google Walletの上に作られています。手持ちのクレジットカードの特典を踏まえて支払い方法を提案し、関係するプロモコードもカートに表示します。Googleが提供した画面イメージには「このカードで2%キャッシュバック」「20%オフのコード」「35ドル以上で送料無料」といった表示が並んでいます。
どこからプロモコードを集めて表示するのかは、発表に書かれていません。プロトコルの側では、UCPの値引きの実装ガイドが、加盟店がプロファイルで値引き機能(dev.ucp.shopping.discount)をチェックアウト機能の拡張として宣言して初めて、Googleが値引きコードを送る仕組みを定めています。
最後のチェックアウトには2つの経路があります。カートの中でGoogle Payを使って数タップで買うか、商品を加盟店のカートへ移して加盟店のサイトで買うかです。この「移す」経路の中身は、5月の時点ではほとんど見えていませんでした。
カートの裏側:UCPのCart APIはまだ片道
加盟店のサイトへカートを移す経路は、UCPのCart API(機能名 dev.ucp.shopping.cart)で動いています。Googleの開発者向けガイドは、これをUniversal Cartを支える機能と明記し、買い物客がまだはっきりと購入の意思を示す前のカートづくりのための仕組みだと説明しています。
流れは単純です。商品をカートに入れている間、Googleは加盟店に何も送りません。買い物客が「加盟店で購入」のボタンを押したときに一度だけ、CreateCart(POST /carts)が呼ばれ、たまった商品の一覧がまとめて届きます。加盟店は商品を入れたカートをつくってそのページのURL(continue_url)を返し、買い物客はそこへ移ります。
見落とせないのは制約の多さです。最初のリリースはカートの作成と移送だけで、Googleと加盟店の間でカートの中身を更新、削除、同期する機能はありません。カートはGoogleから加盟店への一方通行で、移したあとに加盟店側で価格や在庫が変わっても、Googleのカートには戻りません。前提として、UCPのバージョン2026-04-08への対応と、/.well-known/ucp でのプロファイル公開が求められます。
性能の目安もあります。Googleは正式なSLO(サービス水準目標)を課さないとしつつ、応答は1秒未満を推奨し、繁忙期の送客量に合わせた容量の計画と、上限超過時のHTTP 429による抑制を求めています。
Googleは移送の利点として、加盟店のサイトでアップセルの機会が生まれることを挙げています。Google Payなら取引はGoogleの画面で終わり、移送なら最後の画面は自社サイトに戻ります。どちらの経路を用意するかは、自社サイトでの接客をどこまで重く見るかの判断になります。
自社商品を載せるには:Merchant Centerの統合ハブは選抜制
事業者にとって最も実務的な変化は、提供開始の9日前に起きていました。Search Engine Landによると、GoogleはMerchant CenterにUCPの統合ハブを米国で順次公開し始めました。加盟店はここで、加盟店サイトへのカート移送、Google上でのネイティブチェックアウト、会員アカウントをつなぐアイデンティティ連携の3つから、対応する機能を選べます。
ただし、誰でもすぐに使えるわけではありません。Merchant Centerのヘルプが示す手順は3段階です。まずUCPの開発者ガイドに沿って技術的な実装を済ませ、次に関心表明のフォームを送り、Googleに選ばれたら通知が届いてオンボーディングの画面が開きます。そこではサンドボックスで実装を検証でき、フィードの属性や返品、アカウント設定に直すべき点があれば警告が出ます。
順番が「申し込み、審査、開発」ではなく「開発、申し込み、選抜」になっている点は重要です。選ばれるかどうか分からないまま、先に開発の費用を負う構造になっています。何社が選ばれたか、選ぶ基準、申し込みから利用開始までの期間は、いずれも未開示です。外部のサービス提供者やECプラットフォームを使う事業者には、提供元に直接確認するようヘルプが案内しています。
Google上の「購入」ボタンを出す条件は、3月に公開されたヘルプで示されています。PPC Landによると、商品データにnative_commerce属性を付けた商品だけにボタンが表示され、支払いはGoogle Walletに保存されたカードで行われ、加盟店の決済代行会社(PSP)がGoogle Payの支払いトークンを受け付けられることが求められます。ネイティブチェックアウトの手数料などの取引条件は、参照した発表とヘルプには記載がなく、未開示です。
米国外の予定は後ろにずれました。5月には「UCPによるチェックアウトをカナダとオーストラリアへ数か月以内に、のちに英国へ」と発表していましたが、現在のヘルプは統合ハブについてカナダとオーストラリアを「来年」としています。PPC Landは、以前のヘルプには米国・カナダ・オーストラリアで「数か月以内」と書かれていたことを指摘しています。英国の時期は示されておらず、日本についての言及もありません。
ホリデー商戦で見えるもの、見えないもの
提供をホリデー商戦にぶつけたのには理由があります。Adobeは2026年の年末商戦(11〜12月)の米国オンライン売上を2,751億ドル、AIのチャットやブラウザから小売サイトへの流入を前年比130%増と予測しています。AIを入口にした買い物が最も伸びる時期に、Googleは比較と保存と支払いの場を自社の画面に用意したことになります。
ただし、この予測はAIサービスからの送客を測るもので、Universal Cartの利用とは別の数字です。Googleは今回、利用者数、対応加盟店の数、カート経由の購入件数をいずれも出していません。
懸念も残ります。5月の発表時、Retail Diveは、AIプラットフォームが買い物の流れを束ねるほど小売が顧客データとのつながりを失いかねないという専門家の警告を紹介し、ペンシルベニア大学ウォートン校のKartik Hosanagar教授の「エージェントを握る者が力を持つ」という言葉を引いています。カートがGoogleの画面にある以上、何を比べ、どの値下げを知らせ、どのコードを見せるかを決めるのはGoogleです。加盟店が販売者であり続けても、比較の場の主導権はGoogleの側にあるという構図は、今回の提供開始で現実のものになりました。
まとめ
Universal Cartは、5月に描いた「Googleのあらゆる画面を横断する賢いカート」から、検索とGeminiに絞った実用的な道具として米国で動き出しました。YouTubeとGmail、互換性チェック、AP2による代行購入は、今回の発表には出てきません。
事業者にとっての論点は、カートに「載るか」と「どこで買わせるか」の2つです。載るにはMerchant Centerの価格と在庫を正確に保つこと、買わせる経路を選ぶにはCart APIなどを先に実装して選抜を待つことが要ります。年末商戦を終えたGoogleが利用状況をどこまで開示するか、そして選抜の門がどの速さで開くかが、次に見るべき点です。



