2026年6月24日

Omioが会話型トラベルでAIネイティブ企業へ、OpenAIのChatGPT・Codexで予約体験と開発速度を変える

この記事のポイント

  1. 欧州発の多モーダル交通予約Omioが、OpenAIのChatGPTとCodexを使い、鉄道・バス・フェリー・フライトの在庫を会話型で検索・予約できる「会話型トラベル」を実装した
  2. 商品発見の起点が検索フォームからAIとの対話へ移る動きが旅行領域で具体化し、Omioは3000社超・47カ国の在庫をChatGPTの週次9億ユーザーに接続した
  3. 社内ではCodexをエンジニアリングに組み込み、製品開発の工数を従来の約2割に圧縮。旅行・EC事業者には「対話への露出」と「AIネイティブな運用」の二つの備えを迫る

検索から対話へ、Omioが描く旅行予約の次の形

2026年6月23日、OpenAIが交通・旅行予約プラットフォームのOmioを取り上げた事例を公開しました(OpenAI公式事例)。Omioは2013年にベルリンで「GoEuro」として創業した企業で、鉄道・バス・フェリー・フライトを横断して検索・比較・予約できる多モーダルの交通プラットフォームです。提携する交通事業者は3000社を超え、対応国は47カ国に及びます。

旅行の計画は、これまで多くの手間を伴ってきました。複数のサイトを行き来し、交通手段ごとに料金や所要時間を見比べ、断片的な情報をつなぎ合わせて旅程を組み立てる。Omioはこの面倒さこそ、AIで根本から変えられる余地だと捉えました。利用者が行き先を言葉で伝えれば、予約可能な旅程がそのまま返ってくる。そんな体験を目指したのです。

OpenAIの初期顧客でありパートナーでもあったOmioは、リアルタイムの交通データを使った会話型トラベルにいち早く踏み込んだ旅行企業の一社となりました。同社CTOのTomas Vocetka氏は、顧客体験と社内業務の両面でAIネイティブへの転換を進めていると語っています。

会話型トラベルとは何か

会話型トラベル(conversational travel)とは、検索フォームに条件を打ち込む代わりに、AIとの自然な会話のなかで移動手段を探し、比較し、予約まで進める体験を指します。Omioの実装は、この概念を具体的な形に落とし込んだ好例です。

出発点は2023年でした。Omioは、ChatGPT経由で使える最初期の旅行体験の一つを立ち上げ、OpenAIのモデルを自社の交通在庫と予約システムに直結させています。利用者は「ローマからフィレンツェへの最速ルートは?」「パリからバルセロナは鉄道と飛行機どちらがいい?」といった自然な問いを投げられるようになりました。静的な情報を返すのではなく、ChatGPTを実在の在庫と価格データにつなぐことで、本当に予約可能な旅程を対話のなかから見つけられる点が要でした。

2026年4月には、この構想がさらに前進します。OmioはChatGPT上の専用アプリを公開し、自社のグローバルな交通ネットワークをChatGPTの週次9億ユーザーに開きました(Omio公式発表)。検証済みの旅行データに回答を接地させることで、AIが顧客と現実の交通システムをつなぐ「インターフェース層」として働く。Omioにとって会話型トラベルは単なる新機能ではなく、検索ベースからAIネイティブな顧客体験への構造的な移行を意味しています。

OpenAIで具体的に何をしたか

Omioが使っているのは、ChatGPTという入口だけではありません。OpenAIとの約1年に及ぶ協業のなかで、同社はCodexとGPT-5.4を含む先進モデルを、自社のグローバルな旅行在庫と組み合わせて使っています。役割を整理すると、外向きの顧客体験と内向きの開発・運用という二つの軸に分かれます。

領域使用するOpenAIの機能具体的な用途
顧客体験ChatGPT・API・先進モデル会話型の交通検索、在庫・価格への接地、予約導線への接続
開発Codex調査・計画・実装・テスト・コードレビュー・監視・保守の全工程
社内業務ChatGPT・カスタム連携全社員への展開、内部システムと連携した実行支援

社内展開の進め方には段取りがありました。Omioはまず全社員にChatGPTを配り、各チームが試し、学び、自分の仕事の改善余地を見つける段階を作りました。その上で、エンジニアリングのワークフローへCodexを深く組み込み、技術職以外の領域へも広げています。Vocetka氏はこの流れを率直に語っています。

ChatGPTを展開しました。あれは予告編です。本当の仕事が回るのはCodexのほうです。

現在は全エンジニアが、ソフトウェア開発ライフサイクルの全工程でCodexを使っています。Omioはさらに、内部システムやデータ、ワークフローをAIツールに直接持ち込むカスタム連携やコネクタを構築し、社員が情報検索の先にある「実行」まで踏み込めるようにしています。

数字で見る成果と、その意味

会話型トラベルの規模感を押さえておくと、変化の重みが見えてきます。OmioはChatGPTを通じて、3000社超の交通事業者を47カ国にわたって接続しました。同社は1日あたり10万件を超えるチケットを販売し、年間では10億人規模の利用者に届いています。この在庫が、ChatGPTの巨大なユーザー基盤の手元に直接現れるようになったわけです。

開発面の数字はさらに具体的です。Omioの見積もりでは、多くの製品をこれまでの約20%の工数で構築できるようになりました。Vocetka氏は「複数の開発者が四半期かけていたプロジェクトを、1人の開発者がおよそ1カ月で仕上げられる」と述べています。開発サイクルが短くなったことで、試作と検証の回数が増え、大きな投資に踏み切る前にアイデアを磨ける余地が広がりました。

ここで見落としてはならないのが、Omioが掲げる責任の所在に関する原則です。

責任と説明責任は人に残ります。AIは私たちの開発・分析・意思決定を速めますが、舵を握るのは人です。

OpenAIツールへの広範なアクセスと、強いガバナンスや人による監督を組み合わせる。これによりOmioは、AIが実行を加速しつつ、成果への責任は社員が負うという運用モデルを築こうとしています。AIネイティブとは無人化ではなく、人の判断を速く正確にするための再設計だという立場です。

旅行・EC事業者は何を読み取るべきか

Omioの事例は、欧州の交通プラットフォーム一社の話にとどまりません。商品やサービスが「見つかる場所」が自社サイトの外側へ広がるという、あらゆる事業者に共通する構造変化を先取りしています。

最も重要な示唆は、発見の起点が対話に移るという点です。これまで旅行・EC事業者は、検索結果やリスティング広告で上位に出ることを競ってきました。しかしOmioのように対話AIのなかへ在庫が直接現れる仕組みが整えば、利用者は自社サイトを訪れる前に、AIとの会話で候補を絞り込みます。決済まで対話のなかで完結させるエージェンティックコマースの標準も広がりつつあり、同じ波は旅行に限らず時間差で各業界へ及ぶと見るのが妥当です。

実務上の備えは二つに整理できます。一つは、AIに正しく読み取られるデータの整備です。料金・所要時間・在庫といった属性が構造化され、リアルタイムで参照できる状態になっていなければ、対話AIは候補として拾い上げられません。もう一つは、AIネイティブな運用への転換です。Omioが既存業務にAIを継ぎ足すのではなく、仕事の進め方そのものを設計し直したように、製品開発・接客・分析の各工程をAI前提で組み替える段階に来ています。準備の早さが、そのまま競争上の差になっていきます。

まとめ

OmioのOpenAI活用は、会話型トラベルという新しい体験を実装すると同時に、社内の開発・運用までAIネイティブへ作り替えた両面の事例です。3000社超・47カ国の在庫をChatGPTの9億ユーザーに接続し、開発工数を約2割へ圧縮しながらも、最終的な責任は人に残すという原則を保っています。旅行・EC事業者にとっては、発見の起点が対話へ移る未来を先取りする好材料です。AIに読まれるデータの整備と、業務をAI前提で組み直す運用転換という二つの備えを、今のうちから進める価値があります。